一日目 国王視点
その男は、静かにやってきた。
国王の前であるというのに一切物怖じした様子はなく、むしろ国王の方がたじろいでしまった。
それも仕方が無いだろう。
その男、【ムサシ・ミヤモト】は普通三体以上使役していれば天才と言われる精霊を数十体使役していたのだから……。
それだけでなく、見た事も無い羽の生えた一見天使にも見える精霊を使役していた。
自分に仕える妖精も騒いでいた。
「おぉ、勇者よ。よくぞ来てくれた!! ベータ国の王として貴殿を歓迎しよう!!!」
両手を広げ、歓迎を全身で表す。
だが、彼は微動だにしない。
(彼はもしや、神の使徒なのでは……。いや、そうに違いない)
国王の考えはこの場にいる全ての者の考えであった。
勇者として呼ばれた彼は二本の太刀を腰に差し、この国では珍しい黒髪に黒目。
そんな彼の姿に、目を奪われてしまっていた。
「フッ……」
不敵な笑み。国王【シン・ベータ】は生まれて初めて身震いを体験した。
シンはその笑みに確信した。
自分が、どれだけ矮小な存在なのかを見抜かれている、と。
シンは若くして親を亡くし、国王となった。
シンは国王としての知識も人脈も力も前国王の半分程度しかなかった。
そこに魔王の誕生だ。
シンは魔王だ勇者より、自分の事だけで手一杯だった。
だから、彼は勇者を適当に選んだ。
もちろん、そこら辺の者から「お前、今日から勇者な」と選んだわけではない。
ムサシの家系、ミヤモト家は過去に異世界から来た勇者の末柄だ。
だから、ミヤモト家の家系から勇者に相応しい物を連れてこいと命令した。
それは間違いではなかったと今なら言える。
だが、同時に後悔する。
なぜ、彼を【ムサシ・ミヤモト】という存在を自分から見つけ出せなかったのか。
なぜ、彼を【全ての上に立つ器】を持っている者を見つけられなかったのだろうか。
きっと彼は、その事に失望し、あの不敵な笑みを浮かべたのだろう。
私のような矮小な存在が国を治めている事に失望したのだろう。
出来る事なら、彼に王位を譲り彼に仕えたい。
そう思えるほどに、彼のカリスマ性は凄まじかった。
「王ッ……!?」
気が付けば私はムサシ……いや、ムサシ様に膝をつき抱き着いていた。
騎士隊長の驚いた声が王の間に轟くが、今の私には聞こえないだろう。
強い男に引かれる。これは女のさがなのだろうな。
いくら、国王として男のように振る舞っていたとしても生まれ持ったものは変えられない。
私が抱き着いても、少しも驚かないムサシ様。
あぁぁ。カッコいい。
素敵すぎます。
「どうかこの国をお願いします」
「「「!!!?」」」
国王の私が国を託す。それは、自信を託すという事だ。
つまり、プロポーズ。
「あぁ、任せてください」
ぶはっ!!!
「「「シン様!!!?」」」
王は盛大に鼻血を噴出し気絶したのだった。
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