日曜日のヒーロー

うさまさ

第1話

ヒーローになったきっかけなんて特にはない。ヒーローのあるべき姿とか、信条とか信念とかどうでもいい。次元を隔てた向こうで「本物」のヒーローが正義を謳っている。「俺達の守るべき正義は」とか云々。私たちが守るべき正義って何?わからない。わかるわけない。だって考えたことすらないんですもの。こんなことを言ったら世の中の少年少女は幻滅するであろう。僕達、私達のヒーローはこんな奴なんだって、ね。


今日は日曜日。世のサラリーマンは週に一度、二度寝が許される日だ。毎週のお決まりで「悪いやつ」がこの町の治安を荒らす日でもある。その「悪いやつ」から町から守るのが私の仕事。遅く動き出す町の朝、いつもより少し早めの5時半に体を起こし、シャワーを浴びた後軽めの朝食を採る。その後髪型等を丁寧にセットし、今日の仕事着をクローゼットの前で慎重に選ぶ。憂鬱な休日の早起きのモチベーションを少しでも上げるための1連の儀式。爪先を軽く鳴らして外に出ようとした時に「上司」から一通のメールが届いた。

『おはよ~(^-^)/起きてるカナ?

流石に起きてるよね笑笑

早速ダケド敵の位置情報をお伝えするョ^^

今日は大通りか国道沿いに出るみたい

そういえば大通りに美味しいパン屋さんが出来たらしいからよ!

今度いっしょに行こうネ(*´`)

それでわ報告期待してるよ(^-^)V』

たいそう頭の悪い業務連絡だ。こんなのが上司だなんて恥ずかしい。了解、と素っ気なく返信し鞄を持って自宅のアパートを出た。髪型が崩れるからという理由で選んだフルフェイスのヘルメットを片手に階段から降り、いつも通りに早起きして掃除している管理人のお婆さんに軽く挨拶する。ヘルメットを装着し、バイクに跨りエンジンをかけて目的地、敵の居場所まで直行する。冬の張り詰めた朝の空気が変に心地良かった。


さて、大通りか国道か。大通りへ向かう道と国道に向かう道の分岐点に到着した。ここは勘に従って大通りへ向かう道を選択してみる。「上司」からのメールで誘われたパン屋から小麦の焼けたいい匂いが漂ってきた。今日の任務が終了したら寄ってみようか。

勿論1人で。


大通りへ到着した。見慣れた朝の景色、だがいつもより不穏な空気が流れている。予想的中、敵はここにいるようだ。さあ片付けてしまおう。支給品である腕時計に似た変身装置のダイアルを右に90度傾ける。ここで決められた小っ恥ずかしい口上を堂々と決めてあげよう。

「ご機嫌よう、敵の方々。町の平穏を揺るがすのはこの町配属のヒーローが許さなくってよ。あいにくここの警察は役に立ちそうにありませんのでね。あたくしが代わりに無慈悲な鉄槌を下して差し上げますわ!」

嗚呼やはり頭が悪い。さすがあの「上司」が考えただけある。元々の文章を私なりにアレンジして名乗っているのは規約に反するのだが、そこは見逃して欲しい。

このような口調であるが見た目は世の少年が焦がれ、世の少女が初恋をする無機質なフォルムと低めの声。仮面の下は整った美しい顔。れっきとした男だ。

「あっはっはっ来たな!やっぱりお前めちゃくちゃ変なやつだ!敵ながら天晴れだ!どうだ!帰り1杯やらねぇか!?」

「うるさいわね!いいからとっとと倒されておうち帰ってママに泣きついて寝かしつけてもらいなさい!それにあたしはお酒飲まないの!太っちゃうじゃない!」

「やっぱお前は変なやつだな!そういえばお前最近太っ……」

「レディに太ったですって!?もう怒ったわ!血みどろにしてやる!前歯全部へし折って指の爪全部引っペがして内臓全部抉りとってシチューにしてあんたの同僚に振る舞ってやる!」

「あっはっはっ!どっちが悪役かわかんねぇな!」

本部の人間が見たら卒倒するような会話を敵である人間とするのは馬鹿だとわかっている。だが彼は日曜日を除いた月火水木金土は私の数少ない友人だ。このくらいの軽口は許されるだろう。

「も~~~っ!!つべこべいってないで早く終わらすわよ!」

「あいわかった。さあ何処からでもかかってこい!俺も昇格がかかってるからな、手加減はしないぜ!」

汚い「ヒーロー」と「悪役」の裏事情が飛び交っている。これだから純粋な子供たちに見られないようにしないといけないのだ。

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