第52小節目:箒星
「お前が叩くドラムは、機械が叩く打ち込みのドラムとどう違うんだ?」
「はい……?」
同時に脳内を疑問が駆け巡っていた。
神野さんにレッスンをつけてもらうようになってから、日々、上手くなっている実感があった。
これまで出来なかったことが出来るようになり、一歩一歩『完璧』に近づいていく感覚があった。
それはやっぱり爽快で、やっぱり気持ちよかった。
でも、その究極体が、行き着く先が、もし機械と同じなのだとしたら。
「機械ができることなら、お前が叩く必要なんかないだろ?」
……神野さんの言う通りだ。
「いや、でも、じゃあ、なんのためにあんな練習を……」
そんなの自分で考えるべきことだ、と左脳が
それでも、時間がないのを察してくれて、
「あのな、メトロノームに合わせて叩いていたのは、テンポ通りに叩けるようになるためじゃない」
神野さんは真剣な顔でおれの肩に手を置く。
「自分が鳴らしたいタイミングぴったりで音を鳴らすためだ」
「……!」
同じに聞こえるそのふたつが実は違うと言うことは、おれにも分かった。
『機械と同じように叩ける』のではなく、『自分が望むタイミングで音を鳴らせる』。
「なあ、タクト。アタシは、お前のドラムはすげー良いと思ってる。聞いてれば、感情的で、お前が本当はめちゃくちゃ熱いやつなんだってことがよく分かるよ」
「ありがとう、ございます……?」
突然褒めてくれる師匠に戸惑いながらその真意を知りたくて見つめ返した。
「お前のドラムを感情的に……エモくしてるのは、音量だけか?」
「それ、は……!」
『
これは、メトロノームと0.数ミリ秒ズレたタイミングで音を鳴らすことで、もったりした感じや逆に疾走感を生み出すことを指すことが多い。『グルーヴとは何か?』という議論は答えが出ていない、永遠のテーマみたいなものでもあるのだけど……。
でも、そのタイミングが自分で操ることが出来ると言うことは、つまり、これまで偶発的に生まれていた『エモさ』を、自ら狙って作ることが出来る、ということだ。
「なあ、タクト。アタシはお前にドラムを教えていて分かったことがあるんだけど、」
そこまで言って神野さんは、優しく口角をあげた。
「……お前は、なぜか、0.数ミリの違いの重要性がよく分かってて、そこによく気づけるんだよな」
「……ありがとうございます」
……もう、2分は経ってしまっただろうか。
おれはすぐさまスタジオに戻って、作戦を伝える。
本当は、
「……
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