第46小節目:アカシア
少し場所を移動して、おれと
「……あら、そう」
そう言った後、
「検討してくれて、ありがとう。手間を取らせたわね、ごめんなさい」
と
「お、おう。……こちらこそ、すまん」
「ううん。実は昨日、あなたたちの練習を見てから、帰り道に思ってたのよ。なるほど、あれがバンドなのかって。ウチが二人を誘った時にツバメがウチのことを浮気を持ちかけてるみたいに
そこまで言ってから、諦めたような、それでいてどこかスッキリしたようなため息をふぅと一息ついて、
「……ウチには、向いてないわね」
と、そう言った。
「そうなのか?」
「ええ。ウチはウチの思う完璧を再現したい。自分の脳内で鳴っている音をそのまま
「はは……」
あけっぴろげな感想に乾き笑いがこぼれる。IRIAは服従させられるドラマーとベーシストを探している、という予想は当たっていたわけだ。
「ねえ、タクトさんって元々は宅録家だったんでしょう? 一人で多重録音して。他の楽器も出来るって聞いたわ」
誰にだよ、と思ったが、そんなの
「そうだけど」
「じゃあ、どうして、バンドなの?」
「どうしてって?」
「ええ、話の流れで分かるでしょう?」
分かっていたがその質問を少し
「
そして、最後にもう一度。付け加える。
「ねえ、どうして、バンドなの?」
「それは……」
……正直に言うと、おれだって元々バンドをやる気なんてさらさらなかった。むしろやりたくないという気持ちの方が大きかったくらいだ。
特に高校生バンドなんて、『偽物』感があって吐き気がする、とすら思っていた。
別にみんなで演奏すること自体に興味があったわけでもないし、おれが自分で演奏した方が早いのも事実だろう。
それでもバンドを始めることになって、そして今日この瞬間まで続けていて、そこを居場所だと本気で思っている理由は。
思い返したら、そんなの、たった一つ……いや、たった三つの理由しかなかった。
「……それが、
「……そう」
広末はこんな言葉を馬鹿にする風でもなく、そんなもんかなあ、みたいな顔で小首をかしげる。
まっすぐ目をみられるものだから、なんだか口走ったこともあいまって照れ臭くなり、こほんと咳払いをする。
「あー……広末は、IRIAは、どうするんだ?」
肩をすくめる広末。
「ま、打ち込みでカラオケ音源を作って
「そっか……。頑張ろうな、お互い」
「お互いっていうには、ウチのアドバンテージが半端ないけれどね」
相変わらず
「そうなあ」
と先回りして広末が言って、
「本当に口癖なのね」
と楽しそうに笑った。
教室でもそんな顔してれば友達なんてすぐ出来るだろうな、とおれは思った。
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