第41小節目:トレイン・ロック・フェスティバル
「そうか、だから、おれはずっと……!」
昼の陽光が差し込む渡り廊下で、はたと立ち止まる。
寝ぼけていた視界の焦点が合って、ようやく一つの像を結ぶような、そんな感覚だった。
「どぉしたの? たくとくん」
「ごめん、
「どぉいうこと?」
英里奈さんは萌え袖を口元に当てて、首をかしげる。
無理もない。おれはさっきから自分勝手に話している。
でも、その『自分勝手』ということこそが、今の自分の答えだったんだ。
広末からの勧誘から、いやもしかしたらそれよりも前からずっと抱えていたモヤモヤの正体であり、
『ま、好きにすりゃーいーさ。……明日の朝も同じこと思っていられるならな』
そして、きっと、
『おれはおれのために音楽をやるのだ』と、『おれはおれのための人生を生きるのだ』と。学園祭のあの時、有賀さんからされたゴーストライターになる提案を断った時に、覚悟をして、決意をしたはずじゃなかったか。
それなのに、おれはいつの間にか、『バンドのためだ』とか『
でも、今の英里奈さんの言葉で分かった。
もっと、話は単純だ。
おれは、おれが昨日教わって学んだ、成長したスキルを、他でもなく、おれのために使いたい。
そしておれは、amaneのメンバーだ。他のどんなバンドでもなく、おれはamaneだけのメンバーなんだ。
もっと言うなら、amaneは、おれのバンドなんだ。市川のバンドでドラムを叩かせてもらっているわけじゃなく、おれの曲を歌ってもらっているわけじゃなく。
おれ自身のバンドが、amaneなんだ。
『あたしの青春のこれからのすべては、amaneにかけるって決めたんだ』
おれは、英里奈さんのためじゃなく、自分のために、音楽をやっている。そのメッセージの宛先が今回は英里奈さんに向いているというだけのことだ。
……こんなこと、改めて
「英里奈さん、おれは、」
「ぅあ。その顔、ちょっと待って」
言いかけたおれの言葉を
おれの胸に手を置いたままふいっとそっぽを向いた頬はなぜか
「……たくとくん、なんか、言おうとしてるでしょ」
「そりゃ、まあ」
ていうか、「どぉいうこと?」と聞いてきたのは英里奈さんだ。
「その、ね? その顔でたくとくんが何かを言おうとすると、えりなはえりなのペースを乱されちゃうことが多いなぁってことが分かってて……」
「何言ってんの?」
何これ、おれが
「だから、その、ちょっとやめてほしいっていうかぁ……」
「ああ、そう……?」
「うん、そぉ……」
まあ、無理に聞かせるほどのことではないというか、自分の中での発見でとどめておいていいのであればいいんだけど……。
おれが言いかけた言葉を飲み込み直そうとしていると、英里奈さんはちらちらとこちらを上目遣いで見上げてくる。
「ちなみに、なんて言おうとしてたぁ……?」
「はい?」
おれの口から『なんと言おうとしてた』かを言うのは、普通に発言するのと何か違うのか……?
「いぃから、教えて」
「えーっと……」
途切れて、
そして、口にした。
「おれは、英里奈さんのためじゃなくて、おれ自身のために、英里奈さんに向けての曲を作ってるだけだから、気にしなくて良い。……ってことが言いたかった」
「ほらぁ、言わんこっちゃない……!!」
英里奈さんはより一層顔を赤くして、唇をとがらせる。
「別に親切で言ってるわけじゃなくて、本心だから」
「なんでもっと言ってくるのぉ!?」
『もっと言う』って何? 追い討ちってこと?
「んんん……!! ほらぁ、売店行くよぉ!」
「あ、それで、ごめん」
「まだ何かぁ?」
英里奈さんが睨んでくるし、一緒に売店に行くと言った手前申し訳ないが、本心が分かったなら、彼女になるべく早く伝えた方がいい。
「ちょっと、行くところがある」
「どこぉ?」
「……後輩の女子」
「……はぁ?」
一転、超絶呆れ顔だ。
いや、売店行けないのは本当にごめんって思ってるよ。
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