第3曲目 第18小節目:We Will Go
放課後になり、学校のスタジオamaneの4人が集まっていた。
市川だけが立って、他の3人はイスに座っている。(おれはドラムだから仕方ない)
先ほどから、おれが昨日の朝に
いや、会議というよりは……。
「と、いうことで! 今週の土曜日までに曲が出来そうな
「うん……」「だねー……」
「……ねえ小沼くん、この2人はどうしたの?
「無意味におれのこと傷つけるのやめてもらっていい?」
おそらく、沙子は今頃行われているであろう
沙子はともかく、吾妻は他の悩みをバンドの時間に持ち込むのはなんだか意外な気がした。
どちらにせよ、そのどちらの悩みについても市川は
「本番もそんなに遠くないんだから、どんどん進めていきたいんだけどなあ……。歌いたい歌がないのに無理やり出るのも違うと思うけど、なんとなくでチャンスを逃すのは私もっと嫌だよ?」
「「そうなあ……」」
「あのさ、せめてその口ぐせでかぶるのはやめて?」
「市川……?」
市川は目を閉じ、
「はい!」
そして、
沙子と吾妻はほけーっとそれを見上げた。
「んんーっ!」
唇をとがらせておれに目線をやってくる市川。……ああ、おれしか指名できる人がいないのか。
「はい、市川さん……」
すると。
「市川、曲できたんですけど!」
「「「え、まじで」」?」
「そうだよ! それを言いたかったのに全然身が入ってないから……もー!」
頬を膨らませる市川に、
「ごめん、
「市川さん、それを先に言ってくれたらうちももっとちゃんと聞いてたよ」
素直さんと強情さんがそれぞれ返事をした。いや、強情な方はちょっと反省しなさい。
ていうか、この人いつ曲作ってるんだろう……。昨日一緒に帰ったんだけどなあ……。
「あ、でも、歌詞はまだだけど……」
「それは本当なの」
沙子がわずかに首をかしげて質問する。
「うう、疑われてる……! 今回は本当だよ? この
「わあ、詩的……!」
吾妻が目を見開いて
「それで、これから
「「「はい」!!」」
3人それぞれが姿勢を
「えへへ、よろしい! それじゃ、歌うね?」
そう言った次の瞬間、市川はピックを持った右手を振りかざす。
そして、その右手が振り下ろされて始まったのは。
激しいロックミュージックだった。
「おおー……!?」
「うひゃあ……!」
吾妻もその
これまでの3曲『わたしのうた』『ボート』『あなたのうた』はどれもテンポの違いはあれど、優しさの中にどこか切ない曲調の、
だけど、今回はそれまでとは全然違う。
3人それぞれが
演奏を終えて、まばらな拍手が起こる。
「えっと……どうかな?」
それまであの攻撃的な演奏をしていた人とは思えないほどの
「いや、これは……」
「市川さん」
おれが答えようとするのを、沙子が遮る。
「やばすぎるよ、これ……!」
「「!?」」
沙子の語尾におれと吾妻がぎょっと目を見開いた。
「沙子さん?」
「めっちゃカッコよかった……! 何、この頭のどこにそんなの隠してんの」
沙子はそういいながら市川に近づいていき、その頭を両手で掴む。
「近いよ? あれ、ちょっと? ねえ、頭振らないで!」
そしてその掴んだ頭を揺り動かすように振り始めた。まるでそうすることで何かが出てくると思っているみたいだ。
「さこはす!
「あ、ごめん」
吾妻の言葉に沙子がそっと手を離す。
「んへえ……」
目を回した市川が片手で頭を抱えてしゃがみこんだ。
「こんなのどうやって作ったの、今まで作れたことなかったじゃん」
市川は沙子を片目で見上げながら、なんてことなく答える。
「別にいつもと変わらなくないかな? 思ったことを音にしただけだよ?」
「「でしょうねー……」」
信者サイド2人はもはや呆れ笑いを浮かべる。そんな『いかにも天才』みたいな、一周して恥ずかしいくらいの、むしろ『それ言おうと思って用意してたでしょ!』的なそんなセリフを、本当にてらうわけではなく、この人は
「あ、そうすか……」
沙子も急速に
「え、その反応なにかな? 私は聞かれたことに答えただけなのに……」
納得いかないという表情でぶつぶつと文句を言った後、
「えっと、それで、この曲は……?」
とこちらに目線をあげてくる。
「ぜひ、やらせてください」
「やったね!」
おれが代表して答えると、ニコッと笑った。
とりあえず歌詞は『ラララ』で練習を重ねて、最終下校時刻になった。
「ど、どうも……
「ピアノの子だ」
「ステラ……! 一人で部直回れるようになったんだね……! ていうか今日の部直、器楽なのかあ……。う、器楽部ロスが……」
「
そんな突如始まった感動的っぽいやりとりを
最近よく震えるな、おれのスマホ……。
『……今日ねぇ、結果がどっちでも、たくとくんにラインするからぁ』
そんでもって、その相手はもう、1人しか考えられない。
電話とは言ってなかったけど、LINE通話ならラインと言えるのか。どうなんだろう。どうでもいいか? どうでもいいな。
多分おれは緊張をおさえるためにそんなことを少しだけ考えてから、その受話ボタンをぐっと押した。
「……もしもし?」
『あ、たくとくぅん! えっへへぇー。電話しちゃったぁー』
電話の向こうでは、きわめて上機嫌に聞こえる、へらへらとした笑い声。
「
おれは息を大きく吸い込んだ。
「どう、だった……?」
『えっへへー、それ聞いちゃうー? 聞きたいー?』
あははぁー、とひとしきり明るく笑ってから、その結果を告げた。
『だめ、だったよぉ……』
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