第3曲目 第7小節目:Crossroads
次の土曜日。
学校帰りに、
どうやら学校のスタジオは今日、
「っしゃいませー」
スタジオの階につながるエレベーターの扉が開くと、店員のけだるげな声がこちらに届く。
「14時から予約の
何回聞いても、市川が自分のことを小沼と名乗るのはなんかむずむずするな……。
内心で
「……ってあれ、
と、
「おー、ユリボウじゃん」
声につられて見上げると、カウンターの中にいるその店員は、後夜祭に出演していたバンド『
明るい茶髪をポニーテールに結んでいる。キツネ目のかっこいい感じの、かといって
後夜祭でのプロ仕様の舞台の上にいるところしか見たことのない神野さんは、おれにとってはちょっとした芸能人みたいな存在だったので、突然目の前に現れて少し驚く。そっか、普通に高校生やってるんだよな……。
「っつーかユリボウ、アタシはもう部長じゃないっつーの。今の部長はお前だろー?」
二ヒヒ、と笑いながら吾妻の髪をわしゃわしゃと
「もう、頭乱さないでくださいって……。ていうか、もうあたしも引退したので部長じゃないですし」
「あー……すまんすまん、そうだったな」
神野さんは、
その
「あの、舞花先輩、後夜祭見ました、すっごくかっこよかったです!」
「おー、ありがとー。でも、ブルースでつまんなかったろ?」
「いえ、あんまり聞いたことないジャンルでしたけど、すっごく引き込まれました!」
「そかそか、そしたらよかったよ」
お店のユニフォーム(?)のパーカーのポケットに手を突っ込んで二ヒヒ、と嬉しそうに笑う神野さん。
おれもあの日の演奏を
横をみやると、沙子がこちらを見て、なぜか0.数ミリ唇をへの字に曲げている。
「んじゃー、みんな
「はい、彼は
「「どうも」」
引っ込み思案バージョンのおれともともとそういう喋り方の沙子が軽く
「おー、よろしくー。……あれ、そんで、あなたは?」
「あ、そうですよね……! 私はロック部の
「アマネ……そーか、なるほど」
照れくさそうに自己紹介する市川を見て、一瞬だけ神野さんが目を細めた気がした。
「私が、どうかしましたか?」
「いーや、なんでもない。ごめんな、いきなり」
自分の頭をかきながら謝る。
「というか舞花部長、ここでバイトしてるんですか?」
吾妻が気になっていたであろうことを質問する。
「そーなんだよ、始めたの最近だけどな」
「え、でも、もう10月ですよ? 受験勉強とか大丈夫なんですか? 舞花部長、器楽部の春大会のエントリーシートとかも出し忘れてたし、受験の日程とかも認識してないんじゃ……?」
「その話いつまでしてんだよ、やめてくれよ……」
吾妻が世話を焼こうとするのを神野さんが手を振っていなす。ダメそうな先輩の心配をしている吾妻、めっちゃ吾妻って感じだな……。
「っつーか、言ってなかったっけ? アタシ、
「へっ!? そうなんですかっ!? 全然知らなかった……」
吾妻が目を丸くしている。
「そーなんだよ。うまくいっても来年の9月からの入学だからな。それまで学費の足しになればと思ってバイトしてんだ。スタジオでのバイトだったら、ドラムだったら部屋が
「なるほど……舞花部長らしからぬ計画性ですね……」
「ハハ、お前も結構失礼だな。アタシが海外行っても寂しくて泣くなよー?」
「今日の今日まで海外に行くことも教えてくれなかった先輩のことを寂しくなんか思いません」
吾妻はふいっといじけたようにそっぽを向く。
「おーおーツンデレか? 相変わらずユリボウは可愛いなー? ……って、すまんすまん、もう時間だな。マイク何本使う?」
「2本借りたいです!」
市川がぶいっと二本指を神野さんに見せる。なんで市川は毎回2本借りるんだろうか。歌うの1人なのに。
「ほーい、どーぞ。3番スタジオでーす」
神野さんが、カゴに2本のマイクを入れて渡してくれる。
スタジオに向かう時、不機嫌そうにしている沙子に小さく声をかけた。
「なんか、神野さんと嫌なことでもあったか?」
「……別に」
「じゃあなんでそんな不機嫌そうなんだよ?」
「あとで話す、ばか拓人」
……え、原因、おれ?
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