第3曲目 第3小節目:ずっと近くに
学校帰り、
「ど、どうしましょうか……?」
「う、うん、そうだね……」
それじゃあおれたちも帰ろうか、というところだ。
きっと、そろそろ、おれと彼女の話をしなければいけない。
いけない、のだが……。
「い、
「あっ……。んと、私は特には……
……
しばしの
そうだ、あの日も
* * *
2人並んだ電車の中。
文化祭のミスコンの結果が出たりなどしていたので、そんな話を
『次は、吉祥寺、吉祥寺』
ほどなくして、録音された音声で市川の家の
そりゃそうだ、
「ああ、じゃあ、えっと……また明日、だな」
席を立つ準備をする市川におれはそっと別れの言葉を告げる。
すると、
「あの、ね」
ぎゅっとおれの
「もうちょっとだけ、一緒に、いたいな……って」
彼女はうつむきがちに顔を赤くしながらも、おれの方を見ずに、そっと、
「そんなこと言ったら、困らせちゃう、かな?」
とおれにそんなことを
その時のおれの
「あっ……お、ああ、おおお……」
「……へ?」
うん、何も伝わってないですね。
いやだって、ほら、分かるでしょ? ここまで
「と、ととととりあえずおりもおります」
「えっと、下りてくれるの?」
「ひゃい」
そう伝えて、ロボットみたいになりながらホームへ
「そしたら、どう、しよっか?」
「い、
「……行きたいところはないけど、今、ちょっとお話しておきたいことが出来た」
突然少しむっとした表情に、おれは冷や汗をかく。
おれたちは
「あの、ね。呼び方のこと、なんだけど……」
もじもじとうつむきながら、彼女はそんな風に切り出す。
「もう、下の名前では、呼んではもらえないのかな……?」
そして、上目遣いで訊いてきた。
その表情の中に元天才シンガーソングライターamaneの
「そ、そうなあ……」
正直な
まず、非常に照れくさい。恥ずかしいというのとは少し違う。とにかく照れくさい。
次に、
『バンド内に恋愛なんてご
そんなの関係ねえ! と、
呼び名を変え、関係性の違いが
よって、導き出せる解決法は。
「……2人の時は、あ……『
そう、なんとかつぶやいた。池を見ながら。限界。
「…………!」
「あのー……?」
なんの声も返ってこないので、不安になって横を見やると、感動とも
「……どうかしましたか」
「あの、私、ちょっと、ううん、すっごく、困ったかも……」
「困った……?」
いかん、困らせてしまっているらしい。2人の時だけというのが嫌なのだろうか? それとも下の名前で呼ばれるのを実際に久しぶりにされてみたら嫌だったか?
「なんていうか、ね? あの、その……」
「はい、なんでしょう……?」
市川はカーディガンの
「すっごく、好きだなって……。そんな特別扱いされたら、心臓が持たない……」
「……!?」
今度はおれが困る番だった。なんだよそれ、どうすりゃいいんだよ!?
「ねえ、たく」「ちょっと待った」
おれは両手のひらを相手に向ける。
それはまずい。実にまずい。
「おれを下の名前で呼ぶのは、ちょっと待ってくれ」
「どうして……?」
なんだか
「おれ、それをされると、こないだみたいに昇天するらしい」
おれが耳を熱くしながらそんなことを言うと、一瞬キョトンとした顔をしたあとに、
「ん? 気を失っちゃうってこと?」
と、少し意地悪そうな顔になって訊いてきた。
「いや、見ただろ、こないだのおれを」
「うん、見た見た」
にやけている市川の目。おれの弱みに、いきなり余裕を取り戻しやがった……。
「でも、私も2人の時、何か特別なことがしたいな。私のことを名前呼びしてくれるのだって、本当はあんまり納得いってないんだよ?」
「なんでですか……?」
「
「あー、そうなあ……」
おれは、ふむ、と考える。
「でも、とりあえずはいいや!」
彼女は嬉しそうに笑う。
「段々、慣れていけばいいよね! ……だって、」
はにかんだように笑って彼女は言う、
「これからずっと、一緒にいるんだから。ね?」
なあ、吾妻。今なら出会ったばかりの頃の吾妻の気持ちが分かるよ。
この天使の可愛さを前にしたら、誰だって気を
* * *
……こほん、時を戻そう。回想の表現に乱れがございましたが
「えーっと、小沼くん、特に行きたいところなければ、私、マック行きたいなあ……」
「マック? もちろんいいけど……」
それはなんだか、久しぶりにどこかの小悪魔に遭遇しそうなご提案ですね……。
「じゃ、行こっか、小沼くん」
「おう、そうだな」
「んー……?」
何かをせがむように市川が顔を覗き込んでくる。
「そうだな……えーっと……天音」
「はい、よろこんで! えへへ、ありがとね?」
そのはにかんだ笑顔におれは今日も今日とて気を
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