Interlude 2(前編):ワンピース
<作者コメント>
Twitterには書かせていただいたのですが、今週末を使って、今後の展開の整理をしています!
書きたいことが多すぎてそれを時系列順に書いていくととんでもない分量になりそうというのが理由です。
整理している間、あまり更新止まりすぎるのも申し訳ないので、一度、人気投票第1位の吾妻の短編(前編)を更新させていただきます!
本編とは関係ないので、ゆるく楽しんでいただければ嬉しいです。
それではどうぞ!
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「おはよ、小沼!」
「おう、おはよう……」
立っているのはなぜか、東京駅のJR改札内新幹線乗り場前。
目の前にはなぜか、白いワンピースを着た吾妻由莉さん(似合ってる)。
おれの手にはなぜか、ボストンバッグ。吾妻の手にはなぜか、小さなスーツケース。
「えっと、これはどういう状況なんでしょうか……?」
「夢だよ。あたしと小沼で旅行するっていう」
「ゆ、ゆめ……?」
「そう、夢。……あたし的には、2つの意味で」
「そうなんですか……?」
ぼそっと付け加えられた『2つの意味で』っていうのはまじでよくわからないけど、とりあえず、これは夢の中の景色らしい。
「ていうか、やけに飲み込みが早いな、吾妻」
「まあ、あたしは事前に聞いてたから」
「え、誰から?」
「ゆずちゃん」
「ゆず!?」
妹の名前が突然出てきて、おれはすっとんきょうな声をあげてしまう。
え、吾妻ねえさん、うちの妹に会ったことすらないよね? ゆず違い? 長い長い下り坂をゆっくりゆっくり下ってく方? それとも、だからもう迷わずに進めばいい方?(一緒)
「ま、いいじゃんいいじゃん。早く行こ。早くしないと、夢からさめちゃうかもだし。はい、
「お、おう、ありがとう……」
よく意味も分からず、やけに段取りの良い吾妻から切符を手渡され、新幹線に乗りこんだ。
新幹線では2人席に並んで座った。
吾妻が窓際で、おれが廊下側だ。
「吾妻、これ、どこに向かってるんだ?」
「どの都道府県に行くとか、そう言うことじゃないから、とりあえず気にしないで」
「ふーん……?」
まあ、たしかに、夢の中で地理のことを考える方がおかしいか。うん、この世界観に慣れていかないとな。
おれが頭を切り替えるために目をつぶって
「あ、富士山!」
吾妻が嬉しそうに窓の外を指差す。
「お、ほんとだ」
つられて見てみると、見事な富士山が見えた。(富士山が見えると言うことは、新幹線の路線、少なくとも方角がかなりしぼられるのでは? という
「きれいだなー」
おれが自分の席から吾妻越しに窓の外をほけーっと見ていると、こっちを見た吾妻がむっと顔をかすかにしかめる。
なに? と思う間も無く、おれのTシャツの胸元をぎゅっとつかんで、おれを窓の方、っていうか吾妻の方へとひ、ひひ引き寄せた。
「どうせ夢の中なんだから、遠慮しないでいいって。もっとちゃんと見たいでしょ」
「お、おう」
とはいえ、突然のことに、首を長く伸ばす形になり、さらに、おれはバランスを崩しそうになり、窓に左手をついてしまう。
えーと、吾妻ねえさん。窓の外をよく見せてくれようという
もうおれにとっては富士山どころじゃないし、なぜか吾妻も富士山じゃなくておれの方を見ている気がしますよ!?
「……小沼、のどぼとけの形、きれいだね」
「は、はい!?」
何を見てるかと思ったら、のどぼとけ!? そんなフェチあるの!?
「なるほど、たしかに良い声してるもんね……」
神妙にうなずく吾妻におれは急速に恥ずかしくなり、
「も、もう、富士山見えないから大丈夫!」
ぐっと身を引いて自分の席に腰掛ける。
「うん、まあ、富士山は通過したか……あのさ、ちょっとお願いなんだけど」
「な、なに……?」
吾妻はこちらを、正確にはおれののどのあたりを見ながら。
「のどぼとけ、触ってもいい?」
やけに
「えっ?」
そんでもって、まだいいと言っていないのに、人差し指がこちらにゆっくりゆっくりのびてきた。
「お、おい、吾妻……」
「大丈夫、すぐ済むから……。ちょっと、上、向いてて」
……あの、おれたちは新幹線の中で何をしているのでしょうか?
おそるおそると言った感じで、吾妻がおれののどぼとけを、指先でツン、とつついた。
「んっ……」
つい低い声が漏れる。
「え、痛い?」
「い、いや、痛くはない……けど……」
「そっか……なんか、変な感触」
そんなことを言いながら、指の腹でころころと表面をなぞってくる。(のどぼとけのね!)
いや、変な感じはこちらのセリフすぎるんだが……。
上を向きつつも、のどを覗き込んでいる吾妻の丸顔が視界の端っこに入ってくる。心なしか
ついつい、唾を飲むと。
「ひゃっ、なんかニョロって動いた!」
吾妻がビクッと身を引く。
「小沼、大丈夫……?」
心配半分、興味半分という感じで訊いてくるので、
「ええっと、もう、勘弁して……」
おれは両手を小さく挙げて、降参のポーズを取った。
「あはは、顔真っ赤にして、うける」
「うけねえよ……」
何この斬新なボディタッチ……。え、これ、R15指定タグ付けなくて大丈夫ですよね?
ということで。
新幹線から降り、在来線も乗り継ぎ、どこかの県のどこかの町に着きました。
「わー、いかにもって感じの温泉街だね!」
「ほんとだな」
駅の出口から大通りになっていて、ピンボール屋とか居酒屋とかラーメン屋とかおみやげ屋とか、そういう『いかにも』なお店がズラーっと並んでいた。
「あ、射的屋さんだ! 射的やってく?」
大通りを歩きながら、吾妻が無邪気な笑顔で訊いてくる。
「いや、射的を他の女子とやると誰かに怒られる気がするからやらない」
「どゆこと……?」
どういうことだろう、おれもこの世界観に慣れて来たということかな……。
「ま、いいや。それじゃ、おみやげ屋さんでこのピカチュウのお面を」
「それも駄目!」
ていうかおみやげ屋さんでお面なんか売ってんの見たことないよ!?
「あはは、冗談冗談。普通に温泉まんじゅう食べよ! これは、大丈夫でしょ?」
「う、うん、大丈夫だけど……」
冗談って、吾妻は何をどこまでわかってるんだろう……? スキル《
「いらっしゃい! ここはまんじゅう屋じゃよ。どの品物を買ってくれるかの?」
「茶色い温泉まんじゅうと、白い温泉まんじゅうがあるんですね! じゃあ、一個ずつください!」
「ほれっ、茶色まんじゅうと白色まんじゅうじゃ!」
ドラクエの道具屋みたいな話し方をする店のおじいさんから、吾妻が元気に二つまんじゅうを買った。
「あ、じゃあ、おれも一つずつ……」
「いいからいいから」
続いて買おうとしたおれを吾妻が制す。なんでなん?
「小沼、どっち、先に食べたい?」
「え、先に?」
「どっち? 早く早く。冷めちゃう」
「そんなすぐに冷めないだろ……。んーじゃあ、茶色」
「わかった、はい」
そう言って、茶色い方のまんじゅうをおれの口元に差し出して来た。
「ん?」
「一口だけだからね! あ、でも、一口で全部食べるとかないからね! 半分こね」
「いやだから、おれは自分の分を……むぐっ」
「黙って食べなさい!」
話していて少し開いた唇にまんじゅうを押し付けられる。
観念して半分くらいをそっと食べると、
「おいしい?」
お姉さん顔で嬉しそうに笑いかけながら訊いてくる。
「……おう」
なんか、その笑顔がやけに
「そかそか、よかった! じゃあ、次こっちね!」
そう言って、白いまんじゅうがもう片方の手から、またおれの前に差し出される。
「じ、自分で食うって!」
顔を熱くしたおれは、とりあえず吾妻から白いまんじゅうを手でひったくった。
「あ、ほお? あ、ほんとだ、おいひいね」
……ていうか吾妻はナチュラルに茶色い方食ってるし!
そんなやりとりをしながら、吾妻の案内で、旅館に着いた。
……ていうか!
「今日なにこれ、泊まりなの!?」
「そ、そうなんだよね……」
旅館の玄関を前にして、さすがの吾妻も身を固くしている。
「そんなことありなのか……?」
「どうなんだろ……でも、多分、泊まらないといつまでも夢からさめないっていうシステムなんじゃない?」
「そうなあ……」
「……あたしは、それならそれでもいいけど」
「……え、なんだって?」
……聞こえてないよ! 本当に聞こえてないよ!
==============
<作者コメント>
……そして、筆が乗りすぎてしまったので、次回に続きます! お泊まり回です!
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