第2曲目 第34小節目:milk
「で、でーと……?」
「そう、デート!」
ニコッと市川が笑った。
どどどどどうしよう、デートなんてハジメテデナニシタライイカワカラナイヨ…….。
「お、小沼くん……?」
ロボット化(しかもすげえ前時代的なやつ)したおれを、市川が「おーい」と揺すって人間に戻してくれる。ありがとうございます……。
「すまん、動揺した……」
「えー? いやいや、小沼くん、英里奈ちゃんとよくデートしてるじゃん」
動揺しているおれを見て市川さんはなぜか嬉しそうである。
「英里奈さんとおれが……? いつ? 何年何月何日何時何分地球が何回回った時?」
「えっと、私はいつの間にか小学生の男の子と話してるのかな……? いつかは分からないけど、マックによく行ってるよね?」
「あ、あれ、デートですか……?」
「さあ、私に聞かれても分からないけど、多分、デートなんじゃない?」
「そうかなあ……」
そんな風におれが思ってたら英里奈さんに気持ち悪がられる気がするけどなあ……。
「……だし、ディスクユニオンに2人で行ったのも、私はデートだと思ってたんだけどなあ」
市川は口をとがらせる。
おれは、ホームで夕陽に照らされたそのすねた顔になんだか見とれてしまい、言葉を失った。
「……思ってたんだけどなー?」
すると、市川がおれの顔をのぞきこんでくる。
「お、おう……」
なんとかしぼりだせたのはそんなしょぼいあいづちだけだった。
「小沼くん、どうしたの?」
「い、いや、別に!」
バンドメンバーのすねた顔に
「そ、それで、デートって、何すればいいのですか?」
「え、な、なんだろう、私も分からないけど」
「そ、そうなの?」
「う、うん。え、私が慣れてると思ってたの?」
2人のデート初心者がお互いどもりまくっているというなんともしょぼい状況が展開されていた。
「なんか、市川、なんでも
おれが頭をかきながらそんなことを言うと。
「私がデートする相手なんて、小沼くんしかいないよ」
と、返ってきた。
「じゃ、じゃあ、行きたいところとか、あるか?」
不意を突かれてドギマギしながらも、なんとか建設的な質問をする。成長を感じる……!
「んーと、そうだね。そしたら、私……マックに行きたい!」
「マック? なんで?」
「いや、実は、行ったことなくて……」
「まじで!?」
「うん……」
市川が恥ずかしそうにうつむく。
そういえば前に沙子と3人で楽器屋に行った時も、牛丼屋も行ったことないって言ってたなあ。
「えーっと、本当に行って大丈夫か?」
「……英里奈ちゃんとは行くのに、私とは行きたくないの?」
市川にしらーっと、にらまれる。
「いえ、ご一緒させてください!」
ということで、マックにやってきました。
「マックマック! 嬉しいなあ、マック!」
「そうですか……」
嬉しいのは何よりだけどあんまりはしゃぎすぎないでね、目立つから……。ただでさえ人の注目を集める容姿をしてるんだから、気を付けないと……。
「あの子、めっちゃ可愛くね?」「すごいいい子そうだね」「天使だ」「うん天使だ」
ほら言わんこっちゃない。
ていうかおれ、市川の隣にいるの荷が重いなあ……。
久しぶりにスキル《ステルス》を発動しよう。気配を消して、ちょっと距離を開けて、全然関係ないところを見る。うん、これで、大丈夫。と、思った
「ほらほら小沼くん、並ぼうよ!」
「ちょちょちょっ!」
腕をガッシリ掴まれて、おれはその存在を世の中に知られてしまう。
「え、あいつと一緒に来てんの?」「うわ、普通だな……」「別に特段悪くもないところが普通」「うん、結果として普通」
……褒められてるのだろうか? いや、ない。(反語)
とりあえず《ステルス》は諦めて、大人しく並ぶことにした。
「ねえねえ、普通はどれ食べるの? あの、びっくまっくってやつ?」
「そうなあ……」
いや別になんでもいんだけどね。
「じゃあそれにしようかなー」
自分がマックのメニュー選びでこんなにワクワクしてたのは、小学校の時くらいかなあ……。
「ねえねえ、小沼くんは? 何にするの?」
「コーヒー」
「え、それだけ!?」
「いや、夜ご飯入らなくなるだろ」
夕方5時にそんなの食べたら市川家じゃなくたって多分親に怒られるよ。
「そっか、そうだよね……。じゃあ飲み物かあ……。ええーでもそれは、マックっぽくないなあ。……ちなみに、英里奈ちゃんはいつも何飲んでるの?」
なんで英里奈さん?
「マックシェイク飲んでるけど」
「マックシェイクとな! それはかなりマックっぽいね! あ、でも、シェイクってことは、振るの?」
「いや、振らない」
「振らないんだ!
市川さん、ニッコニコである。縁起いいって何?
そうこうしているうちにカウンターのところまでたどり着き、市川が注文したいと言うのでしてもらって(
おれが200円(税込)を出すと。
「なんで小沼くんが払うの?」
「え、ああ、たしかに」
「……英里奈ちゃんと来る時いつも払ってるの?」
「うん、まあ、そうね……」
「ふーん……?」
市川が首をかしげる。また英里奈さん。
「そういう子の方が、好き?」
「はあ?」
じーっと見つめられて、おれはなんと答えたらいいかよく分からなくなる。
「……えーと、あの、お客さま?」
「「はいっ!すみません!」」
とりあえず、出していたおれの200円でお会計を済ませ、座席のある二階への階段を上がる。
「えへへー、初めて小沼くんにプレゼント買ってもらっちゃった」
「は、プレゼント……? そのシェイクのこと?」
プレゼントっていうか、ただのおごりなんだけど。ていうかまだおごるって言ってないんだけど。
「うん、大事にするね?」
ニコッと笑う市川におれは、つい、言葉を失った(本日2回目)。
だって、だって、そんなの……。
「いや、ナマモノなんだから早く飲めよ……」
何言ってんだこの人。どうかしてんじゃないの?
「なんかすっごく
「そうなあ……」
二階で席につく。
「ここ、英里奈ちゃんといつも座る席?」
「はあ、まあ、そうだけど……。ていうか、なんでさっきから英里奈さん?」
英里奈さんのアリバイを探る探偵かなんかなの?
「なんか、とりあえず英里奈ちゃんとのデートを
照れくさそうに市川が頬をかく。
いきなり
「そもそも、あれはデートじゃないってば」
おれがそう言うと、
「そっか、じゃあ、さ……?」
市川が上目遣いでこちらを見てくる。
「これが、小沼くんの初デート……?」
「……は?」
つい
「どう、かな……?」
市川の期待するような目に。
「ま、まあ、そうなりますね……」
なんとか、認めた。敬語で。
「そっかー……うん、そっか」
「何……?」
「えへへ、それは、合宿の最後としては、最高ですね!」
その笑顔に、おれはつい、言葉を失った(本日3回目)。
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【作者コメント(あとで消します)】
更新が遅くなりすみません!
今フジロックにきておりまして、待ち時間空き時間で更新してアップして行くので、次の月曜日くらいまで更新時間がまちまちになりそうです。すみません。
なお、作者twitter(@ishidatomoha)にて、「『宅録ぼっち』のキャラクターがフジロック2019に行ったとしたらの超短編ss」をリアルタイムでアップしておりますので、そちらもよろしければ……! その場で執筆しているので、天気やセットリストなどでとてもリアルタイムです。
そんなんいらんから本編を進めろ派のみなさま、すみません、頑張ります!!
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