第2曲目 第23小節目:夏の日、残像

 朝の練習が終わり、お昼ご飯を食べ、昼の練習が終わり、夜ご飯を食べ終えた。(まいてこまいてこー!)


 ということで、合宿参加者一同は、昨日の花火大会同様、広場に集められた。


 おれは、一番後ろの一番端っこにひっそりとたたずんでいる。


「ロック部のみなさん集まりましたかー?」


「「「はぁーい」」」


 だがしかし、昨日と違う点が。


「器楽部は、全員いるかな?」


「「「はい!!」」」


 みんなの前で号令をかけているのが、市川と大友くん・・・・なのである。


 あれ、吾妻部長はどうしたの……?


「さて、みなさんお待ちかね、肝試しです!」


 市川部長が元気に言うと、


「怖いねー」とか、「えーどうしよー」とか、「っべー、オレ全然怖くねーわー」とか、「えりな、肝試しって初めてだなぁー、さこっしゅはやったことあるぅー?」「小学校の時、拓人と」「ふぅーん……手繋いだ?」「……うっさい」とか、怖がりつつもなんだか余裕のある雰囲気の中で。


「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理……」


 怖っ!!


 一人、気づかなかったけどかなり近くで肩を震わせる顔面蒼白がんめんそうはくな女子が立っていた。


「えっと……吾妻さん?」


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……」


 いや一番怖いの自分だろ……。ホラーじゃねえか……。


 どうやら、意外なことに、吾妻ねえさんはこういうのがかなり苦手らしい。


 震え上がっている吾妻を見かねた大友くんが代わって前に立ってると言うことなんだろう。


「ルールは簡単です! これからクジを引いてもらって、ペアになった人と一緒にそこの雑木林ぞうきばやしに入ってもらいます!」


 友人のポエマーがこんなことになっていることを知ってか知らずか、能天気なロック部部長がほんわかとルール説明をしている。


雑木林ぞうきばやしを抜けたところに小さなほこらがあるので、そこに置いてある光る石を持って帰ってきてくださーい! 太陽の下にずっと置いて蓄光しときました!」


 光る石ってあの、花火大会の屋台とか修学旅行の土産屋で売ってたやつか……。買ってたやついたけど誰だったっけな、と思い出そうとしたけど、すくなくとも修学旅行はおれは一人で回ってたから買ってたのはおれだな。まだうちにあんのかな……。


 ややあって、クジが入った袋が一番後ろのおれたちのところまで回ってきた。


 おれが一枚引いて吾妻に袋を渡す。


「お、おヌマ……あたシの代わりにヒいテ……!! あたシ動けナイから……」


 いやまじで怖いからやめてください。


 ゆずが昔、ホラー映画を見た夜、おれの部屋に懐中電灯を持って来て、


『お兄ちゃん、一緒に寝てもいい……?』


 と甘えて来るので、


『あ、ああ、いいけど……ゆずがゆかで寝るなら……』


 と、優しく答えたところ、


『これでもかー!!!!』


 と、懐中電灯を顔の下から照らし白目を剥いているのを見て、驚きすぎてベッド枠のかどに頭を打ち、軽い脳震盪のうしんとうを起こしたことを思い出す怖さだった。(回想長い)


 今思えば、いつもおれを『たっくん』と呼んで来るゆずが『お兄ちゃん』と呼んだ時点で気づくべきだった。もちろん、このあと滅茶苦茶怒られた。


 仕方ないので地縛霊じばくれいと化した吾妻の代わりにクジを引いてやる。


 すると。


「ええ、まじで……?」


 おれと吾妻は同じ番号だった。周りを見てみると、結構な確率で近くに立っている人とペアになっているみたいだった。クジがあんまりちゃんと混ざってなかったらしい。クジを作るのは大友くんの担当だろうか?


 ちなみに番号は「49」でした。


 え、この合宿、98人も来てんの? 嘘でしょ? 幽霊部員がいるんじゃない? 二つの意味で……。


「小沼、変なこと考えんな」


「お、おう、悪い……」


 いつのまにか地縛霊から通常状態に戻っていたらしい吾妻ねえさんがスキル《読心術どくしんじゅつ》を使って、おれのモノローグにツッコミを入れてくる。


 勝手に人の心を覗くのはいいんですけど、もう地縛霊ジヴァにだけは戻らんといてくださいよ。(わかりづらい)


 ということで。


 1組ごとに1分おきに出発し、おれらはさすがに最後らしいので自分たちの番をのんびりと待っていた。


「ていうかさ、吾妻。そんなに苦手なんだったら、せっかく部長なんだし、肝試しは無くして練習にするとか、キャンプファイヤーとかの別のレクに変更するとか、なんか出来たんじゃないの?」


 おれが尋ねると、吾妻は『はあ……』と大きくため息をつく。


「まあ、出来たかもだけど、肝試しは音楽部合同合宿オトガの伝統的な行事なの。これで一緒に行った2人は結ばれるってジンクスまであるくらいで……。あたしの勝手でみんなの青春つぶすわけにいかないでしょ」


「そういうもんすかねえ……」


 うん、まあ、吾妻らしい理由ではあるな。


 ……んん!?


「はあ!? 結ばれる!?」


「ひゃぁっ!!」


 吾妻が吾妻らしからぬ高い声を出して身をすくめる。


「あ、吾妻……?」


 おれが声をかけると、吾妻はゆっくり涙目&上目遣いでこちらをにらんでくる。


「いきなり大きな声出さないで……!」


「わ、わるい……」


 だって結ばれるとか言うから……。


「……10年くらい前にこの肝試しでペアになった男女が結婚したらしくてね。それ以来のジンクスというか迷信なんだって」


 へえ、そんな面白い迷信もあるんだな。


「迷信とか言う割に意外と日が浅いんすね……」


「なんか文句あんの?」


 やべ、モノローグと口に出して言うセリフを逆にしてしまった。


「いえ、なんでもないです……」


 おれは肩をすくめて黙ることにする。


 すると、ちょうど、雑木林ぞうきばやしの入り口のあたりから声をかけられた。


「49番のペア、進んでー」


 大友くんの声だ。


 どうやら大友くんはみんなに指示、誘導をするためにずっとあそこにいるらしい。


「ていうか吾妻、大友くんのポジションだったら肝試しなんか参加しなくて済んだんじゃ……?」


「あのポジションはこのあと帰って来る人たちを驚かすオバケ役に回るから、暗いとこに隠れなきゃいけないんだって。そんなこと、この怖がりのあたしが出来ると思う?」


「いや、さっきの吾妻だったらオバケ役は適任だと思うけど……」


「ああ!?」


 いや、それもまた別の方向に怖いですよねえさん……。あと、担当的には沙子の担当なんで取らないであげて。


 吾妻と連れ立って雑木林ぞうきばやしに入っていくところで、


「……持っている人と、欲しがってる人が同じとは、限らないもんだな」


 と怨念おんねんのこもった声が聞こえた気がした。


 ……いや、それは自分がクジをちゃんと混ぜなかったからだろ!


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