第2曲目 第13小節目:リズム

「あれ、小沼くん?」「え、ゆりすけと」「そういうパターンもあるんだっけぇ……?」


 吾妻に腕を引かれて花火の会場である広場に着くと、先に着いていた女性陣から三者三様の反応が返ってきた。(さぁ見てらっしゃい三つ葉のおでましだ!)


 あ、一応、市川、沙子、英里奈さんの順です。


「ん?」


 吾妻は3人の反応を受けてチラッとこちらを見ると、


「あ、ごめん、これはそういうんじゃなくて、小沼がたらたら歩いてたから引っ張ってきただけ!」


 パッとおれの腕から手を離し、自分の胸の前で手を振る。


「なんだ、そういうことかあ」


 市川はなんだか胸をほっとなでおろしてから、おれを叱る。


「小沼くん、由莉とは言え、器楽部に迷惑かけちゃダメだよ?」


「す、すまん」


 いや、おれらのバンドのためなんだが……。


「あっぶねー……」


 ちょっと吾妻ねえさん、少年みたいな口調になってますよ。


 心中でツッコミを入れていると、ニヨニヨ笑顔を浮かべてふわふわのツインテール女子がそろそろと近づいて来る。


「ふぅーん? たくとくん、ふぅーん?」


 おれの顔をのぞきこんできた。だから、近いっての……。


「なに、英里奈さん……」


「べっつにぃー? 残るはえりなだけって感じですかぁ?」


「はあ……?」


 何言ってんだまじで。


 ちなみに、沙子は脇の方で無表情のまま小刻みに跳躍ちょうやくしてる。……え、まじで何してんの沙子ちゃん。


「よし、じゃあやりますか! 由莉、こっちこっち」


 そう言って、市川は吾妻を引っ張ってみんなの前に立つ。




「ロック部のみなさん集まりましたかー?」


「「「はぁーい」」」


「器楽部全員いますか?」


「「「はい!!」」」


 相変わらずテンションの違う号令が二つ並び、何はともあれ全員が、広場に集まったらしい。


 てかおれ最後だったんだ、ごめんなさい……先やっててもらってもよかったんですけど……。


「それでは、花火大会です! 手持ち花火だけどね。沢山買ってあるので、遠慮せずどんどんやってください! 前まで取りに来てね」


 市川が能天気にそんなことを言う。


 沙子はちょっとハッとした顔をした後、おれの横でアキレスけんを伸ばしはじめた。んん? 走る準備でもしているのかな?


「遊んでていいのかな」「練習しないと怒られそう……」


 近くに立っていた器楽部員が小さな声でささやきあっている。


「器楽部員!」


 すると、吾妻部長が注目を集める。


「「「はい!!!」」」


「花火のぜる音は青春のきらめく音なんです! 死ぬ気で楽しんでください!」


「「「はいっ!!!」」」


 器楽部員が嬉しそうに返事をする。


 ユリポエムが良い感じにはじけて輝いているなあ。花火だけに。(あんまりうまくない)


 ていうか、なんか、吾妻、元気になったな……?



「よし、じゃあやりますか! 花火大会スタートです!」


 市川の号令にしたがって、わーわーとみんなが両部長の近くに置いてある手持ち花火を取りに群がる。


 号令が出た瞬間、すごい速さでおれの横から金髪がいなくなった気がするけどまあいいや。


 んん……ていうか、え、何、これ。


 各自で勝手に手持ち花火をやるっていう、自由フリー形態スタイルのやつなの? 何したら良いか分かんなくてもはや迷宮ダンジョンなんだが。


 それはむずい、気まずい、恥ずい、ずいずいずっころばしのごまみそずい。


 テンパったおれがついつい心の中でライムをかましてると(そんな状況はない)、さっきいなくなった金髪女子が何本か花火を手に持ってきた。


「はあ、はあ、拓人、これ、花火」


「うん、わかるけど……」


 なんか息切れてるし。


「はい」


「あ、うん、ありがとう……」


 花火を受け取り、ろうそくをキョロキョロと探して、そちらに向かう。



「拓人、ゆりすけと、曲の話してたんでしょ」


「……うん」


 移動しながら話しかけて来る沙子には、おれの用事の内容が分かっていたらしい。もしかして、沙子も《読心術どくしんじゅつ》使えんの?


「ゆりすけは、なんて言ってた」


「おれの曲が良かったら考える、ってさ」


 おれは途中の色々を端折はしょって、結論だけを言う。


「ゆりすけ、偉そうだね」


「いや、そういうんでもないんだが……」


 おれがなんとなく言葉を濁してると、


「まあ、それでいいならいいけど。頑張らなきゃね」


 と、励ましてくれた。


「そうなあ……」



 そんな話をしながら、ろうそくから火をもらって花火をつけた。


「すごい、きれい」


「そうなあ」


 文字面もじづらだとそんなにテンションが上がっているようには見えない沙子さんですが、幼馴染の感情マイスター小沼の視点から見たところによると、沙子のテンションはぶち上がってます。


『すごい』『きれい』と感動を伝える言葉が2つ並んでるからね。これはやばいですよ。


「沙子、花火好きだよな」


「……そうなあ」


「え?」


「……なんでもない」


 ん? 今のは沙子なりのモノマネジョークですか……?


「花火は、楽しい記憶とセットだから」


 そっぽを向きながら、言う。


「そうなあ……」


 なお、今回の「そうなあ……」は本家おれのやつです。ややこしくてすみません。


「ねえ、拓人」


「ん?」


「今年の一夏町ひとなつちょうの花火大会の日、予定あるの」


 沙子が質問している(多分)。


 一夏町の花火大会とは、おれと沙子の地元、一夏町で行われる花火大会だ。(情報量増えてない)


「いや、ないけど」


 まあ、実は花火大会が何月何日なのかは知らないんだが、夏休みには一日も予定入ってないから絶対、大丈夫。いわんや大丈夫。


「じゃあさ……一緒に行こ」


「花火大会に?」


 おれは、首をかしげる。


「いやなの」


「いやじゃないです」


 小学生時代、沙子の家族とはよく一緒に手持ち花火をやったし、打ち上げ花火大会にも親も含めて一緒に行っていた。


 中学校に入ってからは、さすがに照れるというかなんか見つかったら沙子に悪いな、ということがあり、一緒に行ってはいなかったが。


 なんでだろうか。花火を見る時、沙子は、口角を通常レベルに上げるのだ。


 そして、それは、今も。


「じゃ、約束」


 ニッコリと笑って・・・・・・・・沙子がおれに小指を差し出してくる。


「お、おう」


 なかなか見ることが出来ない沙子の笑顔にドギマギしながら、おれも小指を出して、そっと結んだ。


 ……ていうかかなり照れるんですけど?


「嘘ついたら針千本飲ますから」


 笑顔のまま言ってくる。本当に飲まされそうなんだよなあ……。


「火のついた花火千本飲むのでもいいよ?」


 いや、もっと怖いし……。


「そしたら、千本分、花火出来るし」

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