第1曲目 最終小節:『わたしのうた』

 ステージでは、チェリーボーイズが片付けをしている。


 その脇で、市川と、沙子と、おれと、吾妻が4人で輪になっていた。


「あれ、由莉も出るのかなー?」


 少し離れたところでそんな声が聞こえる。


「吾妻、おれらと一緒にいたら……」


「大丈夫だよ、小沼。だって、あたしもamaneのメンバーなんでしょ?」


「……そうか」


 おれはしっかりとうなずきを返した。


 そのやりとりを見てニコッとした後、市川が、少し声を落として話し始めた。


「私ね、一回デビューしたこと、ずっと後悔してたんだ」


「後悔?」


 おれが訊きかえす。


「うん。デビューしなかったら、今もまだ歌えたかも知れないのに、そしたら、もっと沢山曲作れたかもなって」


「ごめんなさい……」


 沙子がズーン……と重い空気を出す。


 すると、市川は手を自分の前で振りながら、


「ううん、沙子さんがどうとかじゃなくてね。きっと私は、他の人のどんな言葉でも、何か言われたら、すぐにダメになっちゃってたと思う」


 と言った。


 そして、えへへ、と笑う。


「でもね。今日、今、この瞬間なら、デビューしてよかったんだって間違いなく言えるよ」


「……どうして?」


 吾妻が訊く。


「だってさ。私がデビューしてなかったら、小沼くんは曲を作らなくて、由莉は歌詞を書かなくて。そしたら、『平日』は出来なかったでしょ?」


 そう、市川は笑う。


「amane様……」


「市川……」


「うちはいない……」


 1人ヘコんでるやつがいるけど、気にしない。


 沙子の方を見て、市川がもう一度、意地悪そうに笑う。


 そして、一息ついて、右手を前に出した。


「だからこそ、私は、もう一度歌えるようになるために」


 円陣を組もう、ということらしい。なんかこっぱずかしいな……。


「あたしは、限りある青春を形にするために」


「うちは、後悔してる過去をつぐなうために」


 吾妻が、沙子が、そう言いながら、右手を下に重ねていく。二人ともノリノリだな……。


「小沼くんは?」


 3人が、こちらに注目する。


「おれは……」


 おれは、なんのために?


 おれはずっと。


 自分をぼっちだとか地味だとか言い訳をして、傷つきそうなことから逃げて、本当に憧れているものに手を伸ばすこともしなかった。


 だったら、このライブくらいは。


「おれは、憧れているものに手を伸ばすために」


 そう言いながら、右手を市川の右手の上に重ねる。

 

「あ、えっと、うん……」


 市川が赤面して顔を少し伏せる。


 なんだ……?


 コホン、と咳払いをしてから、市川は、いつもみたいに。


「よし、じゃあやりますか!」


 その言葉を合図に、おれらは、小さく、だけど大きく、「おー!」と、掛け声をあげたのだった。




 ステージに上がり、準備が出来た。


 ニコニコと笑う市川と、眉間みけんにシワを寄せて真剣な顔をした沙子がこちらを見る。


 市川はマイクの方を向く。


「こんにちは、amaneです」


「天音ー! 自分の名前って!」「かわいいー!」「YUIやってー!」


 歓声があがっている。すげえな、市川の人気……。


「今日は、amaneが作ったオリジナル曲を1曲だけ、やりたいと思います。YUIはやらないんだ、ごめんね」


 えへへ、と笑う。


「でも、私たちにとって、すごく大切な曲です。『平日』と言う曲です。聴いてください」


 そう言って、市川は目を閉じて、ふぅーっと息を吐いて、すぅーっと息を吸う。


 おれは後ろから、その肩が上下するのを見守っていた。


 やがて、市川が構える。


「『目覚まし時計に追いかけられて家を出た』」


 ほぉ……と息が漏れた。


 よかった、歌えた……!


 順調な歌い出しで、『平日』の演奏が始まった。


* * *

目覚まし時計に追いかけられて家を出た

革靴は足にひっかけたまんま

チャイムと同時に教室に飛び込んだ

寝癖をみんなに笑われた


憂鬱なはずの起床、窮屈なはずの電車、面倒なはずの学校が、

なんでだろう


机の下を走る秘密のメッセージに

「えっ?」て声が出て叱られて

4限で指された私の代わりに

お腹が答えてまた笑われた


退屈なはずの授業、困難なはずの勉強、面倒なはずの学校が、

なんでだろう


下校道、電車を何回も見送って

ホームで日が暮れるのを見て

帰りの電車、今日一日を思い出したら

変だな、なんかちくっと痛い


厄介なはずの下校、窮屈なはずの電車、面倒なはずの学校が、

なんでだろう

* * *


 おれは、歌をつぶさないよう、なるべくドラムを優しく叩きながら、市川の歌に聴き惚れていた。


 歌声に寄り添う市川のアコースティックギター、進むべき道筋を示し続ける沙子のベース。


 歌詞の一つ一つが、メロディの一つ一つが、鼓膜を通して、身体に浸透していくみたいだ。


 いくつもの風景が浮かんでは柔らかな余韻よいんを残して消えていく。


 市川と初めて話した夕暮れの教室、吾妻と初めて会った日のコンビニ、「日常は良い」を書いていたノート、ミキサーを見に行った多目的室の倉庫、沙子と仲直りした階段の踊り場、英里奈さんやはざまと話したアイス屋の前、吉祥寺のマック、武蔵野線、中央線、ディスクユニオン、いきつけのスタジオ、ロック部のスタジオ、新小金井駅前の正座したベンチ、図書室のグループ学習室、英里奈さんの泣いた階段……。


 通り過ぎていく風景。どれも、そのままにしておくことは出来なくて、一瞬だけ輝いてすぐに消えてしまう。


 たった一人でいた時には知らなかった感情を、景色を、空気を、おれは知った。


 すべての始まりは、あの日、amaneのゴーストライターになると決めた瞬間。


 何回、amaneにおれは人生を変えられてしまうんだろう。


 演奏は続き、甘美かんびな時間はあっという間に過ぎていく。


 いつの間にか、最後に追加した大サビにさしかかっていた。 



* * *

ねえ、なんでだろう?

楽しいとか嬉しいが大きいほど 切ないも大きくなっていく

割り勘のアイス、机の落書き、「おはよ」の挨拶

あと何回くらい なんて数えかけてやめた


ねえ、なんでだろう?

こんな日々が普通であるうちに その答えは分かるかな

夕暮れのベンチ、帰りのコンビニ、「またね」の挨拶

あと何秒くらい その横顔を見られるのかな

* * *


 英里奈さんが、はざまが、おれの知らない沢山の人たちが、うっとりと舞台を見ている。


 そんな中。


 最前列で、吾妻が胸の前で祈るように手を組んで、市川を見上げていた。


 そう。


 ここからが、市川のオリジナルの曲の部分だ。


 スティックを持つ手に力が入る。


 頑張れ……!


 市川がすぅっと息を吸う音がマイクに入る。


「『知らないふりして また笑ってみせた たった一つだけの 当たり前の平凡な日常』」


 歌いきった……!


 吾妻の表情がぱぁっと明るくなる。




 ジャーン、と3人の音がまとまり、曲が終わった。


 市川がこちらを振り返り、ニコッと笑いながら、Vサインを出す。


 おれもなぜかかいていた汗をぬぐいながらVサインを返した。


 すげえな、市川……。




 会場を、歓声と拍手が満たす。


 心底ほっとした。


 ステージをおりたら、市川に「さすがだな」って言ってやろう。


 沙子に「良いベースだったな」って言ってやろう。


 吾妻と4人でこの勝利を分かち合おう。


 そう思って、スティックを持って、ドラムイスから立ち上がる。




 その時。




「は……?」


 おれは、鼓膜がとらえた音に、目の前で起きている状況に、つい声を漏らす。


 会場を満たしていた歓声が、拍手がうねりをあげて、一つにまとまっていた。


「「「アンコール! アンコール!」」」


 もう一曲演奏しろ、とみんなが笑顔でせがむ。


 そんなこと言われたって、曲が、ねえだろうが……。


 おれは嬉しいとは思いながら、この場をどうおさめたらいいのかと思案する。


 とりあえず、終わったということを表現するために、大きく手を振ろうかとした瞬間。





 市川のギターの音が聞こえた。





 C。


 G。


 C。


「は……!?」


 おい、この曲は……!


「市川さん……」


「天音……!?」


 沙子と吾妻が目を見開く。


 間違えようもない。


 おれが一生で一番たくさん聞いた曲。


 amaneの幻のシングル。


 『わたしのうた』だ。




 コードCの響きを残したまま、市川がマイクに向かう。


 いつの間にか、おれは手をぎゅっと握りこんでいた。


 市川が、すぅっと息を吸う。


「『ねえ、自分にしか出来ないことなんて、』」


 震える声で、それでも。


 市川は、冒頭を歌いはじめた。


「市川……」


 おれはドラムイスに腰を落とした。腰が抜けたのか、なんなのか、自分でもわけがわからない。


 とにかく、目の前で起こっていることを信じられないままそこにいた。


 だって、そこに、おれの憧れのamaneがいたのだから。


 目に涙がたまる。視界がうるんでいくのを感じる。


 頑張れ、頑張れ……!


「『たった一つだって』……」



 だが。


 続きを歌おうとしたamaneの声は、かすれて、消えてしまう。


 ギターの音も弱くなり、やがて、演奏が止まった。



 おれは、唇を噛む。口の中で鉄の味がした。


 くそ、くそ、くそ、くそ……!



 会場がざわめく。


「あれ、終わり?」「どうしたんだろう?」




 市川は、それでも、もう一度ギターを構える。


 C。G。C。


「『ねえ、自分にしか』……」


 でも、前回よりも早くまた声がかすれて消えてしまう。



『無理すんな』と、その一言が、どうやっても喉から上に出てこない。


 おれはドラムイスに座って、その光景を見てばかりだった。




 市川が、また、演奏を始めようとする。


 C。G。C。


「『ねえ、自分に』……」


 また、かすれて消えて行く声。



 吾妻が心底痛そうな表情で、それでも、吾妻も止めることをしなかった。



 おれはなんて最低なんだろう。


 こんな時でも。


 amaneの歌うamaneの『わたしのうた』が、聴きたくて仕方がないのだ。




 市川の、4度目の演奏。


 C。G。C。


「『ねえ、自分に』……」


 また、声がかすれて消えて行きそうになる。



 その時。


「うわああああああああああああ!!」


 とんでもなく大きな声がどこか、すごく近くから聞こえた。


 ほぼ同時に、シンバルが金切り声をあげる。






 それは、おれの声と、おれが叩いたシンバルだった。




 とにかく、バスドラをめちゃくちゃに踏んでいた。シンバルをめちゃくちゃに叩いていた。



天音・・!!」


 わけもわからず、おれは、市川の名前を叫んでいた。


「天音!!」


 肩をビクッとさせて振り返った市川と目が合う。



 会場から戸惑いの声が上がっているのかもしれないが、そんなのは聞こえない。




 歌ってくれ、amane。


 もう一度、あの曲を、歌ってくれ。


 頼むよ、頼む。




 おれはめちゃくちゃなドラムを叩きながら、市川を見据える。


『小沼くん……?』


 そう、市川の口が動く。


 すると、おれの右側でベースのCの音がズゥン、と響いた。


 沙子の音だ。


 沙子を見ると、唇を噛んで、指がちぎれそうなほど強く強く、何度も何度も弦をはじいている。


『沙子さん……!』


 3人の視線が交差すると。


 市川が、そっと、うなずいた。



 市川が前を向き、そして、もう一度、大きく息を吸う。



  

「『ねえ、自分にしか出来ないことなんて、たった一つだってあるのかな?』」




「天音……!!」


 市川が冒頭の1人で歌うところを歌いきった。


 おれは沙子とアイコンタクトをする。


 そこから、めちゃくちゃじゃない、リズムをしっかり刻むドラムを、だけどフルパワー・・・・・で、叩き始める。


 それに合わせて、沙子がベースを弾き始めた。



 そう。


 ロックオンは、音響がクソなんだ。


 おれは、ステージに上がる前、ボーカルが聞こえるように、ドラムで調整すると言った。


 だから、その逆をやればいい。


 ドラムをフルパワーで叩けば、それにベースが合わせれば……!


 市川は、もう、怖がらずに歌うことが出来るかもしれない。



 大丈夫だ、amane。


 おれらが、付いてるから。


 だから、歌ってくれ。




 市川がバンドに合わせて続きを歌い始める。


 何百回も聴いた曲だ。


 歌詞なんか、脳内で余裕で再生してやる。


 * * *


 ねえ、自分にしか出来ないことなんて たった一つだってあるのかな?

 教室のすみっこ おりこうなだけの私

 ねえ、かけがえのない存在なんてものは たった一つだってあるのかな?

 遠い街に住む運命の人を 私は一生知らないままかもしれない


 私は何にも持ってないから自信がなくて

 私には自信がないから勇気がなくて

 「そばにいて」ってそんなことすら言えないまま


 痛みとか傷を避けて歩いてたら いつの間にか大切なものから遠ざかってた

 それはきっと大切なものの近くにいるのが 多分一番いたいからなんだろう


 苦しいことばかりで 痛いことばかりで

 今日を投げ出したくなるけど

 もしかしたら、もしかしたら

 60億人の人混みの たった一粒 何者にもなれない私に

 「いてくれてよかった」と言ってくれる人に

 いつか 出会えるかも知れない


 ねえ、自分にしか出来ないことなんて たった一つだってあるのかな?

 私が答える そんなことどうだっていいよ


 もし私がここにいたことで

 息を吸ったことで、笑ったことで、泣いたことで、歌ったことで、

 生まれたものがあるのなら


 それがどんなに小さなものだっていい

 私は誇りみたいに、勲章みたいに

 バカみたいな笑顔でかかげて生きていよう

 * * *


 おれの全力のドラムと、沙子のベースに包まれて、amaneが切々と歌う。


 ときに、つかえながらも、それでも、確実に、前に前にと音楽は進んでいった。




 最後にもう1フレーズだけ、歌詞がある。


 原曲通りなら、バンドが音を止め、ボーカルがたった1人で歌う部分だ。


 いけるか? それとも、叩き続けるか?


 そう迷った瞬間。


 市川がピックを持った右手を大きく上にかかげた。


 おれは、笑う。


 かっこよすぎんだろ……!


 おれと沙子が音を止めた。


 会場に静寂が走る。


 amaneの息の音だけが一瞬会場中に、いや、世界中にスゥーっと響く。





「『これが、わたしのうた』」





 そう、amaneが最後の1フレーズを歌い上げた。

 

 やばい。


 こぼれる。


 おれはとっさに顔を伏せながら、シンバルとバスドラを同時に鳴らす。


 その音と同時、ベースとアコギの音が鳴った。


 曲の最後のジャーン! というところだ。


 もう、どうにでもなれ。最高だ。


 めちゃくちゃに叩く。


「ありがとう、本当に、ありがとう!」


 うるんだ声で市川がマイクを通して、叫んでいる。


 おれはぼやけた視界の中、顔をあげる。


 最後の一発。


 視界がぼやけても、しっかり合わせられるように。




 大きく両腕を振りかぶって、最後の最後の一発を叩いた。




 歓声が上がる。拍手が巻き起こる。


 その中に一つだけ、嗚咽にも似た声で「天音、よがっだぁぁぁぁ」という声が聞こえた。






 無事ロックオンを終えたおれたちは、片付けを終える。 


 片付けを終えて多目的室を出ると、チェリーボーイズを待っていたのであろう英里奈さんが(相変わらずすげえ字面だな)とことこと寄ってきて、おれの裾をつまみながら、


「たくとくん、今日、かっこよかった……ちょっと、本気になっちゃうかも……」


 と、もじもじと言って、返事も聞かずにはざまたちのいる多目的室の中へと入っていった。


 なに? 本気……?


 首を傾げていると、肩をペシッと叩かれる。


「あーあ、小沼、悪いやつ」


 吾妻だ。


「は?」


「まあいいや、英里奈のことは。とにかく、お疲れ」  


 そう言って、売店で買ってきたのであろう缶のカルピスをくれる。


「なんで、カルピス……?」


「青春の味がするから」


 はあ、それはまた、なんというか、ユリポエムっすね。


「あたしたちさ、2人して、amane様のただのフォロワーで、まがいもので、ダサいなあって思ってたんだけどさ」


「おう……?」


「『平日』は、間違いなく、小沼とあたしがいなかったら出来なかった曲だわ」


 吾妻は、


「小沼とごえんがあってよかった!」


 と、笑う。


「じゃ、またあとで! みんなで帰ろ! 昇降口にて待つ!」


 そう言って去っていった。


 周りにバレないようにそっと笑って、カルピスをプシュッと開けて飲みながら6組の教室に向かう。


 廊下の壁に、一度スタジオに楽器を置きに行った金髪が寄りかかって立っていた。


「沙子、お疲れ」


「……お疲れ」


「『わたしのうた』、よく覚えてたな」


 沙子はすねたように、


「何回も何回も聴いたから。……拓人の好きなもの知りたくて」


 とそう言った。


「そ、そうか」


 何か、言ったほうがいいんだろうか?


「えっと……」


 おれがまた見切り発車で言葉を継ごうとすると、


「拓人が好きなものは、うちも好きだから」


 そう、沙子にさえぎられる。


「じゃ、ゆりすけに呼ばれてるから、またあとで」


 そう言って、沙子は昇降口の方へ向かった。

 

 なんじゃそりゃ……。



 首をかしげながら6組の教室に入る。



 夕暮れ色の空気で満たされた教室。


 窓際の自分の机の上に座ってアコースティックギターを構えてぼーっとしている後ろ姿がそこにあった。


 市川天音(いちかわあまね)。

 容姿端麗(ようしたんれい)、成績優秀。

 黒髪セミロングのストレートヘアーが彼女のイメージに似合っている。

 人当たりは良いが、人に媚びるような態度を見せることは無く、凛としたその姿に、男子のみならず女子にまで好かれている。

 おまけに歌が上手く、ギターが弾ける。


 そして、自分で作った曲を、自分で書いた歌詞を、自分で歌える。


 完璧を絵に描いたような美少女だ。


 おれがドアを開けた音に気付いたのか、市川がこちらを振り返る。


「おー、小沼くん」


「……なんでまたギター構えてんだよ」


「いやあ、歌えたのが嬉しくて……」


 えへへ、と市川が笑う。


 机からおりて、おれの方に近づいてくる。


「小沼くん、本当にありがとうね」


「別に。市川自身の努力だろ」


 照れくさくておれはつい窓の外を見てしまう。


「ねえ、次は、小沼くんの番だよ」


「ん?」


「小沼くんの曲、小沼くんが作ったって言えるようにしよう」


「いいよ、そんなの」


 市川は、そう言ったおれの両手をとって、自分の胸の前でぎゅっと握る。


「ねえ、お願い。だって、」


 歌い始めみたいに、市川がすぅっと、息を吸う。





「小沼くんは、私の、憧れなんだ。」

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