第1曲目 第22小節目:マック2

 マックについた。一昨日ぶりの英里奈さんとのマックだ。


 2人分の飲み物を買って、客席のある二階へと上がる。なんとなく、おれがおごる流れになっている。


「コヌマくんは、今日もコーヒー?」


「うん、まあ」


「ふぅーん......舌だけはオトナなんだねぇ」


「ん!?」


「別にぃ」


 前回来た時よりもなんか嫌なニュアンスが含まれているような気が......。

 不機嫌だな、英里奈さん。


 席につく。前回と同じ、窓際の二人席だ。


 窓際といっても、窓の外がアーケードなので、日が差し込んだりと言うことはない。


「一昨日来たばっかなのにごめんねぇ」


「いや、別にいいけど。どうしたの?」


「そっちょくに聞きます! コヌマくん、さこっしゅのこと、好き?」


「......は?」


 いきなり何を訊いてくるんだ?


「大事なことなんだよぉ」


 じっとおれの目を見て、英里奈さんが言う。


「好きって言うのは、あの、恋愛的なことで?」


「当たり前じゃんかぁ」


 やめて、その、「ばかなの?」みたいな顔しないで......。


「いや、えっと、恋愛も何も、おれ、一昨日久しぶりに話したばかりで、友達なのかすらよく分からないんだけど......」


「そういうことじゃないんだけどなぁ......」


 英里奈さんが、んぁー、みたいなため息交じりの声を吐きながら机に突っぷす。


「同盟、組めるかもって思ったんだよぉ」


 ぽしょり、と声が聞こえる。


「同盟?」


「でもそれって、どうなんだろぉっていう風にも思うんだぁ」


「は?」


「もぉ、えりなもどうしたらいいか全然分かんないんだよぉ」


 もぉ、拓人も英里奈さんが何を言ってるか全然分かんないよぉ......。


「......コヌマくんって、口かたい?」


 英里奈さんが突っ伏したまま顔をあげて、おれを見上げて言う。


「口かたいって言うか......」


「って言うか?」


「言う相手がいない」


 それだけは自信を持って言える。


「......それもそうかぁ」


 あれあれ、結構普通に認められてしまいましたね。


「コヌマくんはさぁ、好きな人の幸せと自分の幸せが違う時、どうする?」


 は、好きな人の幸せと、自分の幸せ?


 何、秘密を打ち明けられるんじゃなかったの?


「あ、いや、えっと......」


「好きな人が幸せになる時のこと考えたら、考えるだけでさぁ、もう、どうしたらいいか分からないくらい胸が痛くなるんだよぉ」


 ほっぺを腕につけて、横向きに突っ伏す。


「だけど、好きな人の幸せを願えないなんて、それは『恋』かも知れないけど『愛』じゃないじゃんかぁ? 絶対」


 絶対。


 そんな強い言葉が英里奈さんの口から出てくるのが、少し意外だった。


「だからね、えりなは、健次のこと応援するって決めたんだよぉ」


 その言葉で、さすがにおれでも気づく。


「もしかして、英里奈さんは、はざまのこと......?」


 ふう、と息を吐いて、机を軽く叩きながら、顔を上げる。


「うん、えりなは、健次のことが好きなんだ」


 そう言った英里奈さんの表情があまりにも真剣で、おれは、言葉が出なくなっていた。


「やっと、二人がうまくいきそうだったのに、おさななじみなんて、今さら出てきて、ズルっこいよぉ、コヌマくん」


「えっと......でも......」


 おれはまだ分からない。


「コヌマくん!」


 英里奈さんが前のめりになる。


「は、はい」


 おれはあいづちの1つもまともにうてない。


「えりなのめっちゃわがまま、一個だけ聞いてくれない?」


「......なに?」


 すると、英里奈さんは、本当にとんでもないわがままを、おれに告げたのだった。


「えりなと付き合って、って言ったら、困る?」


「……はあ?」

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