第37話

 ムスル達が泊まった翌日、俺達はでかいトカゲの前に立っている。え? 地侯龍? そんなものは知らん。こいつはただのでかいトカゲだ。

 コイツの幼生体があんなに旨いんだ。こいつもさぞや美味なんだろうな・・・・・・そう思ってた時が俺にもありました。


 なんだよコイツ! 煮ても焼いても蒸しても揚げても食えやしねぇ。なんつ~か硬くて食べ難い。ゴム底のようだ・・・・・・という表現があるが、コイツはそんな生易しいもんじゃねぇ! 俺の全力でも歯が立たないとか、なんなんだ? コイツの肉は?

 ただ、煮た場合に出る出汁だけは極上だ! この大きなトカゲのトカゲ生が凝縮されてる・・・・・・そんな味だ。だが、煮汁しか使えないとか、とんだ期待外れだ。

 コイツの龍としての素材としてはどんなモノかは知らん。興味は無いしな。なので、素材に関してはマルッとムスル達に提供する。

 なんでも、ヤンキー崩れなタカシが、アイテムボックスのチート持ちらしい。アイテムボックスと、剣の才能(小)があのポンコツなカミサンから貰ったチートらしい。タカシは最高にイカス女神様とか言ってたが、俺に言わせれば、めがみちゃま(笑)なんだけどな。

 剣の才能についてる(小)が気になったんで、なんで(小)なん? と聞いたら、アイテムボックスで容量を食いすぎたんだとか。ホント、しみったれたポンコツだなぁ。


 さすがにこの大きさを入れるには容量が足らないらしく、何とか切断できないかと持ち掛けられたが、コイツ、表皮がすさまじく硬いんだよなぁ。

 狩った直後は、持ち帰ることを考えてたから試しては無いが、やってみたい事はある。

 叩きつけて切れないなら、トカゲの自重で切断すれば良いじゃな~いって感じだね。

 俺は、とても硬く鋭く薄く幅広な刃をイメージする。ここは自宅が近いので、魔力を使い切っても構わない位に気合を入れる。

 イメージを固めたら、常日頃から周囲にため込んでいる、魔法が通りやすくてやたらめったら硬い金属を、トカゲの真下に移動させる。そして、『パンッ』と両手を合わせ、『バンッ』と地面に両手をつく。別にこれらはしなくても発動できるが、まぁ、様式美ってやつと、外部に俺の能力を知らせることになるんだ。手を合わせないと魔法が発動できないと誤認識をして貰うためでもある。リスク回避はしっかりしておかないとな。


 大きなトカゲのお腹部分から、薄く硬く幅広な刃が瞬時に上昇し、トカゲの胴体部分を音も無く真っ二つにする。


 うん、なんか、切れたね。

 格好つけて失敗したんじゃ、情けないからなぁ。とりあえず切れて一安心だ。

 ムスル達は『おぉ~』とか言ってるが、結構ギリギリだったんじゃないかな? 突き抜けた刃の先端が、少し欠けてるし。


 渡す部位は、加工するのに向いてる牙のある上半身と、おまけに両足を進呈する。両足は、まぁ、重さが足らずに少し斜めに切れたが、問題は無いだろう。

 牙を削れば籠手とか小剣位は簡単に作れそうな長さだし、爪は両手剣に加工したり鎧を作るのによさそうな感じだ。ムスルも、ダサい蛮族装備から新装備へ交換して欲しいと切に願う。龍の素材を作った武具防具なら、箔も付くし問題ないんじゃないかな?

 トカゲの肉は下半身分あればいいやな。どうせ出汁取りにしかできないお肉だし。え? 内臓? 何らかの素材にはなるかもだけど、好き好んで内蔵は食べないなぁ。寄生虫とか怖いじゃん? コイツ、数千年は生きてるんっしょ? 食えはしないモノになど興味は無いのだよ! 出汁を取った後に干してみると、意外と食べれはするかもしれないから、この辺りは要検証だな。燻製と干すという工程は、時間がかかるから試しては無いんだよなぁ。

 なんだかんだで、調理の時間もかかったことで、ムスル達の出発も遅れ、もう一泊することになった。

 目の前の脅威はすでに去り、その対象はここで胴体輪切りにされて、出汁用のお肉と化してるもんなぁ。

 せっかくなので、美味しい出汁を使ってムスル達が好むカレーもどきを作ったら、とても好評だった。

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