第35話
「さて、今日は予期せぬお客様が来たが、歓迎しよう。そして、ムスルの帰郷でもある。日々、糧を得られることに感謝し、食事を開始しよう」
糧を得られることに対する感謝は、糧になる生き物にするんであって、あのポンコツなカミサンにだけはしない。その辺りはうちの家族にはキチンと言い含めてある。誰があんな奴に感謝をするものか! ついでに、我が家には『いただきます』という言葉は浸透させてない。
転生者と思しき奴らは、カレーの匂いに、辛抱堪らんって言った感じで食らいつくが、口に入れた瞬間『うん?』といった顔になる。顔になるが、俺はそ知らぬふりをして黙々と食べる。うん、味が足らないのは俺も承知済みなんだよな。香りが近いだけに本当に残念でならない。
「タクル殿」
グラムスがあのパーティーのリーダーらしく、代表してか声をかけてきた。言いたいことは分かるけどな。
「このかぐわしい料理の名前は、何と申すのでござろうか?」
うん、堅い堅い。しかも、語尾がござるかよ。西洋風の見た目でござるとか違和感が半端ない。だが、そこを表情に出すと面倒そうだ。
「あぁ、この料理? カルの実の野菜煮込みだな。お口に合わなかったかな?」
カレーもどきじゃなく、カルの実の煮込み。そこはかとない違和感を与えつつも、カレーとは別物なんだという認識を刷り込む。
「カルの実でござるか?」
「なかなかに食欲をそそる良い風味だろう? ムスルから聞いてるかもしれないが、昔は食うものにも困ってた有様でな。何でもかんでも食えるものを試したものさ。ははは、何度も死にかけたけどな」
死にかけたのは本当だ。しょっちゅうピーピーしてたしな。加熱しても当たるものは当たる。カレーもどきがアレな見た目なため、直接の表現は控えるが。
「カレー・・・・・・という言葉に聞き覚えはござらんか?」
うん、俺を転生者と疑ってるんだろうなぁ。タクル魔闘術もネタ技の数々だしな。
「ふむ。カレーかぁ。カルの実ではなく? それなら残念かもしれないが、聞き覚えは無いようだ。申し訳ない」
詐欺を働く際に、嘘の中に真実をほんの僅かに混ぜ込むと騙しやすいと聞く。カレーっぽい香りの料理とカルの実の煮込みという料理の差異。ムスルの扱う技から、俺が転生者かもしれないと言う予測。そして、心底申し訳なさそうに謝る俺の態度。フフフフ、今心の中はさぞや揺れていることだろう。ちなみに、カルの実の煮込みという設定は、こいつらを見て思いついた。いや、まさか転生者と思しき奴らが接触してくるとは思わないしなぁ。うちの家族には、木の実の煮込み料理としか伝えてないからそこから漏れることもないしな。
転生者=女神からのチートを受けた異端者。もしかしたら、どこぞの機関だか国だかが、転生者たちを管理するために集めてる可能性もあるからな。妙な技を扱うムスルに、転生者が3人もついてる時点で明らかにおかしい。チート持ち=生物兵器 という認識をされてる可能性は高い。俺の実力を知った今なら、何らかのチート持ちと疑ってる可能性もあるしな。まぁ、そこまで目立った能力ではないのは確かなんだが。ただ、俺が鍛えすぎただけで。
それにまだまだ強くなる予定だし、どこぞの国だか機関だかの手先になるつもりはない。もし、そんな組織の手先になると、今回のムスル達みたいにあちこちに派遣されるんだろう? そんな東奔西走する暇があれば、その時間の分だけ身体を鍛えたい。俺はこの辺境の地で、着々と力を積み上げたいんだ。そんな面倒ごとに付き合う暇はない。
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