第32話

 しっかしまた、なんでこんな辺境に? ムスルの里帰りなら一人で来るだろうし、パーティーメンバーを連れてくるとは思えないのだが。


「ムスルが帰郷したのは嬉しいが、こんな辺境に何の用だ?」


 ざっくり聞いたところによると、ここよりさらに辺境に、地侯龍なる巨大な龍種がいて、その卵を盗んだ愚かな奴等がいたとのこと。なんでもその昔、地侯龍とは『自分たちに関わらなければこちらも関与しない』と言う盟約を結んでて、それを違反したってことになるらしい。その盗んだ愚か者達は既に処刑されたが、地侯龍は卵が回収された街に向かって突き進んできてたとか。なぜわかったかと言えば、普段は龍の谷というところに存在していて、それまでは死んだように動かなかったやつが、卵を盗んで街に運び込まれた辺りから急に動き出したからだという。死んだと思われてたから卵を盗んだというのが愚か者連中の言い分だが、盟約は盟約なので法に照らし合わせて処刑。その後、卵の処分を巡って論議してたところで、龍の谷近くの監視所が地侯龍が動き出したのを確認。その進路を割り出したところ、卵を追ってかそれとも見せしめのためか、卵が運び込まれた街へ一直線に向かってきてることが判明。あまりの巨大さに手も足も出せないと判断され、討伐隊すら組まれなかったという。

 んで、このままじゃヤバいってんで、住民の避難を行うと共に、その卵を返すべく辺境の土地まで、卵を抱えてえっちらおっちらやってきたとの事。無駄だとは思うがやらないよりかはやった方がマシだしな。ムスルのパーティが選ばれたのは、ムスルがここらの出身で、この周囲の土地勘があるからだそうで。


「ふ~ん。こんな辺境まで大変だったなぁ」


 ここが超絶な田舎なのは、俺が何よりも承知している。ここにたまに来る行商人も、1年に1回来るか来ないかだしな。商隊で来るんだが、構成メンバーがコロコロ変わってる。聞けば、途中で脱落したとのこと。脱落=死とは限らないが、それだけ途中の道が険しいんだろうな。

 しかし、ここでのんびりしてていいのか? 地侯龍とやらを放置してたら街がやばいんじゃないの? と聞くと

 ムスルは後ろのトカゲを指さして『それが地侯龍』と言いやがった。


「は? あいつはただのでかいだけのトカゲだろう? 龍って言うほどには強くなかったような?」


 まぁ、あれだ。実力を見せる前に完封したわけではあるけどな。俺が首を傾げながら『あまり強くない』といったあたりで、ムスル以外の他のやつらの顔が引きつってるような気がするが・・・・・・うん、倒してしまったものは仕方ない。


「あれは倒しちゃまずかったのか? なんか、この世界の管理者とかそういうのだったり?」


 数千年の昔から存在してるから『地侯龍』とか呼ばれてる? 管理者とかは知らない? ま、そうだよな。でも、地かぁ。他にも天とか火とか水とか居ないよな? この辺境の土地から動かなけりゃ、まず出会うことはないしな。はははは、フラグ? そんなのは圧し折りゃいいんだよ。


 でもあいつ、グレートリザードとかのトカゲが大きくなったやつだよな? と、聞くと、グレートリザードもまた龍種の一種なんだとか。地侯龍の幼年体がグレートリザードで、グレートリザードが成長したら、グランドドラゴンという龍種になるそうだ。そのグランドドラゴンが年経たら地侯龍サイズになるんじゃないか・・・・・・とかなんとか。研究はされてるけど、確かめたやつはいないとか。寿命の関係とかかね? でも、地侯龍は言い伝えられてるんだよな? 良く判らんとこではあるな。考えても仕方ないんだけどな。 

 

 普通はあそこまで大きくなる前に討伐されるか、縄張り争いで消えるよな。グレートリザードのお肉は普通に美味しいし。ってことは、この地侯龍とやらも美味しいんじゃね? というと、ムスル以外がドン引きしてたな。グレートリザードのお肉、マジに旨いんだぜ。

 はっ! ってことはだ、不要になったその卵は・・・・・・食べちゃっても良いのかな? あいつの卵なら旨いに違いない。

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