第30話

 ふひぃ。疲れた。

 行きはよいよい帰りはきつい。トカゲのもとに行くのに数分、帰還するのに5時間、何やってんだ俺は? だがこれで、大量のお肉をゲットだぜぃ!

 まだ少し余力はあるが、魔力も空っぽだ、とにかく腹減った。途中で木の実は食ったが、腹の足しにしかなりゃしねぇ。

 帰還したっつっても、家までは数百メートルは離れてるんだけどな。


 うぬ? 家の前に人だかりが。小人族じゃねぇな。あの身長は。

 普人族か? あの身長は。背の高い耳長は森人族か? また珍しいのもいるなぁ。あいつら森に引きこもってるから、そうそう見られないんだよな。もっとも、小人族は穴に引きこもってるから、小人族は小人族で結構なレア種族らしいんだが。 


 うん? どっかで見たような蛮族装備をしたやつが・・・・・・あれ? ムスルじゃねぇの? あいつは。

 ってか、まだあの蛮族装備してるのか。田舎基準だとイけてるんだけど、周囲にいる人らの方がスタイリッシュだよな。こう、シュッというか、シュタッというか、見ててスッキリする。今だから言えるが、あの頃は俺の感性も若かったからな。今見たら、あの装備は蛮族装備だわ。恥ずかしくて見てられない・・・・・・。


 でも、ムスルも久しぶりの帰郷だしなぁ。迎えない訳にもいかないだろう。一応は俺が家長なわけだし。一応はな。

 近寄ると向こうも気づいたのかってか、最初から気づいてたみたいだけどな。なんか、蛮族装備が近寄ってきた。作った俺が言うのもあれだが、恥ずかしいから近寄んなよ。


「にぃさんっ!」


 そんな、華が咲いたかのような笑顔をされたら皮肉も言えねぇ。うん、美少女顔に磨きがかかったなぁ。我が弟ながらすごい破壊力だ。これ、騙された野郎連中は、相当な数がいそうだよな。


「よ、よぉ。ムスル。久しぶりだな」


 ちょいと顔が引きつってたかもしれないが、狩りの疲れということにしてもらいたい。

 ムスルは駆け寄ってくると、そのまま抱き着いてきた。


「あはははは。にぃさんだにぃさんだにぃさんだにぃさんだ!」


 怖い。怖いから『にぃさん』を連呼するなよ。

 うぬ? これは・・・・・・かなり鍛えられてるようだな。修練を怠ってないのか。うむうむ、良いことだ。風呂はともかく水浴びくらいはしてるようだな。独特な汗臭さがしないし。ほのかに香るフローラルな香り。うん、こいつは弟おとうとオトウト・・・・・・。


「ちょいまて、ムスル。お前さんの連れが呆然とした顔をしてるぞ?」


 普段の態度と違うのかね? 普段からこのテンションだと、被害者が多そうだしな。

 

「にぃさんだにぃさんだにぃさんだ! あはははははは!」


 おい? 壊れてないか? キャラが。お前はもう少し冷静沈着だった記憶が。


「お、お、おぅ。まぁ、そのアレだ。再会の喜びはまたあとにしてだな。そちらのお連れさんの紹介をだな・・・・・・」

「あ、そうだ! 忘れてたや!」


 忘れてやんなよ。そっちの森人族の♀は、なんか鼻を抑えてハァハァしてるが、隣の普人族の♂とか困った顔をしてるだろう?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る