第26話
「親分! てぇ~へんだぜぃ!」
「オヤビン! 大変にゃ!」
そいつらがやってきたのは。俺がカレーもどきを大鍋でグツグツと煮込んでるところだった。このカレーもどきも、ムスルにご馳走した時とは段違いに風味がよくなってはいる。でも、色々なものが足らなさすぎて、カレーもどきからは脱却できてはいない。そんな料理だ。
「おぅ、どうした? テオ、アゲロ?」
俺がそう聞くと、一人と一匹はスッと両手をあげた。
「そうじゃねぇだろうがよ?」
テオは、本名はテオロスと言い、銀の体毛を持つケットシーだ。洗いあげた後はふっくらとした体毛に、やたらと細い眼。いわゆる糸目のキツネ顔というやつだな。洗うときに確かめたが盲目というわけでは無いようだ。性別は♂。薄汚れて今はぺったりと毛が寝た灰色だが。
アゲロは小人族。銀色の短髪に、頬には斜めに入った十字傷。ぷっくりとした丸い顔にツンと尖った小鼻。見た目は完全に男の子だが、れっきとした大人な女。マジに小人族は男女や年齢の区別がつかない。
「親分があげろっつったんじゃないか」
「そ~にゃ、オヤビンが言ったにゃ」
コイツらは毎回同じボケをかましやがる。名前を逆に呼んでも同じだしな。
「はいはい、俺が悪かったよ。アゲロ、テオロス。んで何があったんだ? あと、俺を親分呼びはヤメロ」
アゲロは手をあげたまま、テオはスッと手を下してもう一度叫んだ。
「でけぇ~トカゲがこっちにやってきやすぜ! 親分!」
「そうにゃ! できゃ~トカゲにゃ! オヤビン!」
俺はカレーもどきを煮込むのに使っていたお玉を突き付け、もう一度訂正してやる。
「俺は親分はヤメロっつってんだろうがよぉ? ああん? 俺は山賊とか盗賊の親玉かっつぅ~の」
今の俺の姿は、真っ白な三角巾を頭にかぶせ、真っ白な割烹着をその身にまとった立派な料理人スタイル。なぜ真っ白かと言えば、これも修練の一環だからだ。料理をする時に真っ白な衣服を身に着けることで、無駄な動きを抑えるようにする。無駄な動きがあると汚れが付くので、自らの未熟さが一目でわかるからな。
アゲロは、突きつけられたお玉の匂いをクンクンと嗅ぐと、ペロリとお玉を舐めあげた。
「お? 旨いなこれ」
「え? あ、本当にゃ!」
二人は俺の突き出したお玉をがっしりと掴んでペロペロと舐めている。
あ~、このお玉はあれだな。廃棄処分だな。こいつら、あんまり風呂にも入らないからなぁ。ま、こんなものは魔法ですぐに作れるからいいんだけれども。
俺は鍋まで戻って、新しいお玉を引き出しから出して鍋を底からかき回す。
「んで、何が大変だってんだ?」
ケットシーもそうだが、小人族もなんだかんだで欲望に忠実なんだよな。今は食欲に支配されてるようだが。
「でっけートカゲがこっちに来てるぜ親分」
「とにかくできゃ~にゃ」
俺はでかいトカゲと聞いてグレートリザードを思い出す。やたらと頑丈な皮膚の下には、噛むと肉汁あふれる旨味たっぷりな肉がみっしりと詰まっている。うん、思い出すとついよだれが垂れちまうな。
俺もなんだかんだで小人族に染まっていると思う。美味しいモノとモフモフは正義だしな。これは真理だから致し方ない。
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