第24話

 冒険者の集う建物についたらまずは速攻で受付に。できれば女性の居る受付が良いな。居なけりゃ男でも。パッと見には、ムスルの容姿は男か女かわからんからな。そこで下から見上げるようにクリクリとした目を見せるように。カウンターが高ければ、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら声を掛けるとか、とても良いな。

 手続きも、可能ならば受付の人に任せてしまえ。その際に『おねがいしますぅ~』と語尾をのびのびにするのも忘れるな。あぁ、身体をクネクネさせる必要はない。田舎から来ました! ヨロシクです! 的だが、少し不安をにじませるような感じだと更に良いな。

 その後で手と足と腰につけた重りを売り払うと良い。良い金額になるはずだ。金額をごまかそうとしたら、そのあたりはアレスによく聞いて売り払うように。よろしくなアレス。


「はっ! 私めにおまかせくださいませ。マスター」


 なんかアレスも俺のことをマスターと呼ぶ。ケットシーの感性はよくわからん。

 アレスはこう、なんというかイケメンなケットシーで、今もキリッとした表情がデキる執事を連想させる。そして、ムスルと並ぶととても絵になる。・・・・・・BL的関係にないよな? マジな話で。

 掲示された金額に納得がいかないなら他の街に行け。返さないようならカウンターをぶっ叩け。粉砕しても良い。修理代くらいなら腕のやつの重り10分の1も満たないはずだ。普通に返してくれたら返してくれたで良いんだけどな。カウンターをぶっ潰すのはごねられた場合な。

 もしその重りを売った直後に絡んでくる冒険者が居たら、受付嬢にすがるような目をした後に、決闘なりなんなり持ちかけて全ての装備品を剥ぎ取れ。外で襲われた場合は、『襲いかかってきた野盗が居たから叩きのめして装備を剥いできました。換金よろしくね?』と、媚びを売るように。剥いだ装備は、使いたいものがあっても全部売却な。装備を残してると逆襲されるかもしれないからだ。愛用の道具とか手放しにくいだろう? そういうことだ。

 その関係でギルドのお偉いさんが出てきた場合は、理不尽じゃないなら従え。こっちを田舎者で侮ったような物言いをしてくるようならやり返せ。もし勝負を挑んできたなら、考え無しの脳筋だ。タクル流魔闘術を世に知らしめるいい機会だ。お前が今まで頑張ってきた成果を実感するいい機会だ。俺を相手にするように全力でぶつかれ。


 ・・・・・・などなど、冒険者に絡まれたときのテンプレ的対応策を教えておく。


 一日かけ、演技指導もしながら一通り教え込んだので、その日の晩は見送りを名目とした宴会だ。持てる限りの技術を総動員し、美味しいものをたくさん食べさせる。イノシシもどきからとった出汁で作ったトンコツラーメンっぽいモノや、なんだかよくわからないスパイシーな木の実から作ったカレーもどき、木の実から抽出した砂糖で作った、とても甘い甘いフルーツケーキなどなど。

 うちの味を忘れないように、どんなに出世してもいつかは戻ってくるように、味覚に刷り込みを仕掛けておく。

 とてもとても可愛い弟だ、俺だって寂しいんだよコンチクショウ!

 

 次の日の朝、心の底から名残惜しいが、ムスルを送り出す。

 アレスと手をつないで歩いていくんだが・・・・・・うん、もう諦めよう。弟の性癖がどうあれ、俺は関与しない。しないったらしないんだぁぁっ!


 うん、ムスルが暴れに暴れて、冒険者街道をのし上がっていく様子が目に浮かぶようだ・・・・・・。え? 俺の仕業? いやぁ、何の事だかワカラナイよ。


 こちらを振り返り振り返り去っていくムスル達を眺め、泣き崩れて立てなくなってるニルスを部屋に送った後は、こっちも日常生活に戻らないといけない。

 狩りに行き、戻ったら食べられる植物を集めた畑に行き、雑草を抜いたり水を与えたりと世話をしていく。

 どんな時、どんな状況でも、生活はしていかないといけないからな。


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