第17話
新居での最初の夜は、ニルスの部屋に集まり三人で星を見ながら寝た。俺には珍しくもない星空だが、弟妹には刺激が強かったらしく、なかなか寝付けないでいたようだ。だがある時点で電池が切れるかのように眠っていった。その後で弟妹が寝たのを確認して俺も就寝。
朝、目が覚めると、ムスルを抱きまくらにしてた模様。起きたときに美形な顔が目の前にあったのでドキッとしたのは仕方ないところではなかろうか? うん、クレスと毎晩抱き合って寝ていたから習慣になってるようだ。ちなみにクレスとの間にエロはなかったが。モフモフにそんな感情を抱けるほどには、俺もレベルは高くないからなぁ。
お互いに抱き合っていたので、そっと抜け出し朝食の準備に。
朝食は食料庫に保存してあるお肉を遠赤外線でふっくらと焼き上げたサイコロステーキと、どんぐりに似た木の実のアク抜きし、キノコと炒めた木の実炒め。これを大皿にドンと盛り付け、小皿にとって食べるスタイル。一応二人の前には箸のような棒を2本置いておく。実家では手づかみだったので何も言わないが、俺が優雅に箸で食べる姿を見れば、使い方を練習するんじゃないかな? と、少し期待はしている。やっぱ手づかみは不衛生だからな
。箸が無理な時用に、一応は先割れスプーンみたいなのは用意しているが、二人がギブアップするまで放置する予定。箸は便利だから、是非に使いこなせるようになってもらいたいものだ。
二人が寝癖でボサボサの頭のまま食卓に付き、食事が始まった。ちなみに小人族は、起きてから顔を洗う習慣はない模様。手洗いだけは徹底して教え込んだのでそこは問題なく洗うみたいだけどな。
食べ盛りの二人の胃袋に、料理がガンガン詰め込まれていく。手づかみだが今は致し方ない。俺も負けじと箸で優雅に食べる。二人の視線が俺の手元に向くも、今は食欲優先なのか、目の前の箸に一目くれただけで食事を再開。ま、すぐに覚える必要はないわな。気長に待つさね。
結構な量を作ったのだが綺麗に完食。俺は腹八分目くらいに留めたが、弟妹たちは食い過ぎで動けない模様。
その間にざっと食器を洗い流し、朝の狩りの準備を整える。食料庫には肉がそれなりにあるが、魚を食べたい気分なので、隣の川へ魚を捕りにいく予定。
隣の川は、俺の背丈よりも深く、浅瀬は足を取られるくらいに流れが早い。だが魚をとる方法はある。
俺は河原にある自分の頭くらいはある石を担ぎ上げ、川から突き出た大岩にぶち当てる。岩と岩がぶつかることで発生する衝撃波で魚を捕る、前世での伝統漁方、いわゆるガチンコ漁だな。生態系を崩し、捕りすぎるからということで禁じられた禁断の漁方。だがここは異世界、何も問題はない。それに、この川は大きいので大した影響はないだろう。
「そ~いっ!」
持ち上げた石がまたガチンと大岩にぶち当たり、衝撃波が走る。
浮いてきた十数匹の魚を、編み込んだ蔦と木の棒で作った網ですくい取ると、その場でワタと鱗を簡単に取り、口から鰓に蔦を通してそのまま手荷物にし帰宅。
その頃にはお腹を抱えて唸っていた弟妹達も復活したようで、捕ってきた魚に興味津々のようだ。肉は食ったが魚は初体験だろうしな。少しずつ食生活を良くして、頑強な身体になってもらいたいものだ。
お昼には少し早いが、下処理を終えた魚を焼いていく。味付けは削った岩塩のみ。塩だけで風味を逃さず焼くのは至難の業。熱した石のコンロで慎重に魚を炙る。最初は生臭かった魚が、段々と美味しそうな物体へと変化していく。
「にぃさん、ナニコレ?」
「にぃに、お肉じゃないの? でも美味しそうな匂い!!」
さっきまで満腹でお腹を抱えていた二人だが、魚の焼けるなんとも言えない香りに、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。俺もそうだが、よく食う種族だと思うよ。本当にな。今までは食べ盛りなのに、大家族のおかげで満足に食べることができなかったからなぁ。親兄弟と別れてまで俺と暮らしたいとついてきてくれたからには、美味しいものをお腹いっぱい食わせてやりたいものだ。
今はまだ塩だけの味付けだが、後少しで魚醤ができるはず。魚醤があればお肉も変わった風味で焼けるし、山菜の炒め物やお浸しにも使える。まぁ、淡水魚での生成の都合上、火を通したほうが良いのは良いんだがな。この魚醤づくりも何度も失敗し、ようやく形になってきた。俺も期待感に心を膨らませている調味料だ。
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