第16話

 出立の日は、家族総出で見送ってくれた。父上様、俺たちを守ってくれて、その上で日々の食事に感謝です。ありがとうございました。母上様、いつも優しく見守ってくださり、心から感謝です。ありがとうございました。

 残る弟妹の心に、父上様の偉大さと母上様の優しさを植え付け、俺たち三人は家をあとにする。クレスはもうしばらく家に残り、残る家族に狩りや身の守り方についてのレクチャーなどをする予定。冬になる前に他のケットシーを呼び寄せて、俺の後を追いかけてくるらしい。


 俺達は足取り軽く、新居へと向かう。実際の所、ムスルもニルスも、両親の夜の営みに辟易していたらしい。まぁ、当然だよな。分厚い土の壁で部屋は区切られてるけど、微かな嬌声と何となく感じる振動がいやが上にも想像を掻き立てられるしな。あれは正直どうなんかな? とはおもう。たくさん子供を作らないと家系が途絶えるかもしれないってのはあるけどな。他の種族が俺たち小人族を、耳の長さを含め『アナウサギ』と揶揄する奴らが居るのも納得だ。年中発情期かよ! と何度ツッコミを入れそうになったことか。


 俺たちの新居は既にある程度は作成済みだ。川のそばの大岩をくり抜いて住居を作ってある。水は上流側から採取し、下流側は水洗の便所にもなる。川の下に岩を魔法で伸ばして部屋を作り、そこを年中冷やせる食料庫にとした。

 居住区は、基本的に地下部分。分厚い岩の壁とはいえ、冬場は冷えるからな。土の下の地下のほうが暖かく感じられる。一応は暖炉的なものは設置はしているが、俺は火魔法が苦手だし、ムスルは多少は使えるが誤差の範囲。ニルスは、水と風に適正があるが、俺の土ほどじゃない平均的なレベル。うん、生活に魔法を使えるのは俺くらいのものだ。岩を練ればある程度の熱量は発揮できるが、冷えやすい地上から突き出た大岩で温めるよりかは、地下部分で温めたほうが無駄は無いわな。冬場に備えて床暖房とか考えたが、そんな無駄な魔力は使いたくない。俺の土魔法はかなりのレベルに達してはいるが、常に温め続けるのは非効率だし、なによりも、肉体的な能力の成長限界はないが、魔法的な成長限界はあるみたいだからなぁ。こんなところがポンコツだよな。あのカミサンは。


 俺自身は何度も足を運び改良に改良を重ねた新居だが、二人の弟妹にとっては新鮮な別の家。心ゆくまで探検をさせる。その上で質問にも応じるし、改良点も十分に聞き取り実施する。

 二人の部屋はまだ作ってないことだしな。間取も未定。二人の好みが判らないと作りようがないからな。ちなみに実家では、5畳くらいの部屋に子どもたちが雑魚寝をしていた。その方が暖かいし、誰かに異変があった場合は気づきやすいからな。それくらい生存率は低いんだよな。 

 この新居では完全個室、夢も膨らむことだろう。一通り新居の冒険を終えた弟妹たちの好みに合わせ、部屋を作っていく。

 ムスルは、地下の比較的川に近い少しひんやりとした部屋。うん、なんだか落ち着く感じだね。冬場が寒そうだが。

 ニルスは大岩のてっぺんあたりに部屋を作って欲しいそうだ。なんでも星を見ながら寝るのが夢だったんだそうだ。実に女の子らしい夢だよな。こちらも同じく冬が寒そうだが。


 二人の要望を叶えるべく、俺は魔法を駆使し作り上げていく。


 ムスルの部屋は間仕切りを設け、川側の涼しい部屋と、防寒を重視した分厚い壁の二部屋。

 ニルスの部屋は、岩の上部を平らにし、そこをくりぬいたロフト構造。ロフトの部分にベッドを置き、そこの天井部分には透明度の高い水晶のような鉱物をはめ込み、寝ながら星が見えるようにした。この部屋を見てムスルは、なんだか言いたそうな顔をしていたが、そこはお兄ちゃん、グッとこらえて飲み込んだ。まぁ、あれだ、兄弟仲良く寝ながら星を見ればいいじゃん、という俺の言葉に一応は納得してた。夜空なんて最初は物珍しいが、すぐに飽きが来ると思うんだけどな。

     

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