第10話

 うちの家族は基本的に風呂には入らない。しかも水浴びもしない。種族的なのかうちの家族だけなのかは判らないが、まぁ、基本は不潔である。手を洗って食事をするという習慣もない。食事は基本的に串焼きが主で、洗うべき食器もないわけなのだが。乳幼児のための離乳食は、あの時は鍋のように見えたが、何らかの木の実の殻を使っているため使い捨てなんだとか。

 だが、昆虫の狩りに行ったおり、水場が有ったのでそこで軽く手を洗ってみると、驚愕の真実を目の当たりにした。俺の容姿のことではなく、手を洗ったことに対する驚愕だ。俺の容姿? 父上様似であるとだけ伝えておこう。


 家から持ち出した灰で手を軽く洗ったのだが、なんともまぁ、これがまた、垢がボロボロとこすり落とされるではないか。もう垢団子というべき量が、これが両の掌から肩に至るまでに作り出されたのだ。そこからは全身を、水に濡らした灰を塗ってはボリボリ、ゴシゴシとかきむしったわけで・・・・・・。

 冷水で洗うには限界がある。適温のお湯で表面を柔らかくし、荒縄でこすりあげたらどんなに気持ちが良い事だろうか? 

 そこで思ったのが、『風呂に入りたい!』である。

 この垢の量を思えば、全身にはどれだけの垢が堆積してるのであろうかと、想像するだけでなんだか痒くなってくる。もっとも、実際に痒いわけだが。

 前世の知識を持ち越すというのは、便利でもあり不便なんだと、まざまざと思い知らされた。知らなければ幸せになれるのに・・・・・・と、言うやつである。

 だが、外へ出るのは風呂に入るためではなく、家族の胃袋を支えるための狩り。その場は後ろ髪引かれる想いで後にしたのである。


 当面の目標が決まった。風呂に入る。これ一点のみである。


 風呂に入るにあたり、水場を石で囲っての焼き石投入型で良いだろうとは思ったが、まず熱源がない。我が家の火の管理は母上様が任されていて、持ち出せそうもない。一見してぽややんとした感じではあるが、さすがは母親、その辺りは目ざといのである。

 家からの持ち出しはNG。ならば外で入手するしかないのだが、木と木をすり合わせての摩擦熱式は時間がかかる。ならばどうするか? そう、魔法を使えばいいのだ。そう気づいたからには魔法習得を急ぐべし! と、魔法の習得に全力を挙げたのだった。

 

 まず最初に試したのは火の魔法。前世の記憶があるから楽勝だぜ・・・・・・そう思っていた時期が俺にもありました。


  うん。無理。種族的特性なのか、我が種族は火を扱うことができない様だ。我が家にある火を移そうともしたが、どうにもできない。できそうなイメージすらわかない。そういや俺も魔法の才を重要視してない的な発言を、あのポンコツなカミサンに言ったような気がする。あの時の俺に出会えるとしたら、全力で顔面を殴りに行きたいと思う。魔法の才能? 最優先じゃん!


 次に風系の魔法。うん、アレだね。可能には可能であったが、何か平たくて大きな板とかで仰いだ方が早い。ま、まぁ、一応はそよ風程度であれ発動には成功したということで、習得したとしよう。これから鍛えればいいんだし問題ナイナイ。


 次に水系の魔法。うん、アレだね。水場があるなら水場から汲んだ方が早い・・・・・・くらいの微量な量が指先からチョロチョロと。手品の水芸のほうがよっぽど勢いがあるわ! と、言った感じである。母上様に聞くところでは、母上様が水魔法を修めているらしく、我が家の水は、母上様が作り出しているらしい。とは言っても、俺と大差ない感じではあったが。


 光系と闇系の魔法は、何がどうしても発動しない。これも火と同じく才能がないんだろうな・・・・・・と、諦めた。世の中あきらめが肝心だよ。うんうん。


 最後に土系の魔法だが、父上様がその魔法の大家であるらしく、その才能は俺にも引き継がれていたようだ。自由自在に動かせる、岩を粘土のようにこねくり回して自由に形作れるくらいの才能の持ち主。うん、これ、明らかに父上様以上だよね?

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