第8話

 生まれ落ちてから何となく季節が巡り、っても、ここの住居はどうやら洞窟っぽい穴倉のような感じではある。なのでおおよそでしか分からないが、暖かい時期と寒い時期が1回ずつ来たということはそう言う事なんだろう。現世の住まいは、穴倉の中に敷物を敷き、家具を設置したような造り。これはこれで種族のことを考えたらよく似合ってる。何せちっこい種族と思われるから、外敵の侵入を防ぐには最適な住居だとは思う。入口を狭く細く曲がりくねらせたら、大きな外敵は進入できないしな。


 そして乳幼児期を終え、離乳食に移行する辺りで、母上様の名残惜しそうな視線は忘れない。いや、そうじゃない、ここの食生活のことだ。どうやらうちの家族は昆虫を主に食しているらしい。狩りをして危険に身をさらして肉を確保するよりかは、比較的安全で捕獲のしやすい昆虫に目を向けるのは当然ではある。豊富な蛋白源と考えたら忌避するものではないのだが、前世の食生活を考えたらいささかの抵抗もあるというものだ。

 もっとも、離乳食として出されたのが、何やら粘り気のある白い物体だったのだが、軽い香ばしさとほのかな甘みでとても美味しいものだった。

 だが、ある日知ってしまったのだ。手のひらサイズの大きな真っ白な何らかの幼虫を、頭を取り、潰したうえで鍋にくべ、それを練り上げているという事実に!

 確かに味は良いのだが、件の意味不明な言葉を口にしてしまったのは、致し方ないことではなかろうか?


「あら? どうしたの? いつも食べてるわよね? 今日に限ってどうしたのかしら?」


 間違いなく美味しいには美味しいのだ。材料を知らなければな! 

 この離乳食もどきは、甘みの少ない練乳というか、脱脂粉乳に粘りを加えたというか、なんとも落ち着く味なのだ。ときおり舌に残る筋のようなモノは、皮とかモツの名残なんだな・・・・・・と、妙に納得したものだ。


「お? 白虫じゃん」

「母上様、あたし達のもあるの?」

「たくさんありますからね」

「うわぁ~ぃ」


 その白い幼虫は、うちの兄上様や姉上様は、ふだんのオヤツ感覚で生のまま食してるではないか! いや、昆虫は寄生虫が怖いのでやめていただきたいものだ。俺が食う側になっても、必ず火を通すことにしようと幼心に誓ったものである。

 味付けは、父上様がどこからか採取してきた岩塩(のようなもの)で、塩系の味がついてるので問題なく食べられる。だが、素材を知ってると、食があんまり進まないのは確かで・・・・・・。



 そんなこんなで何とか寄生虫にもやられていない(と信じたい)生活も数年が過ぎ、何となく3歳くらいになったある日、一番上の兄上様が急死した。腹痛にもだえ苦しみ死去。享年12歳くらい。家族の誰もが死因には気づいてないだろうが、兄上様は、『昆虫の丸焼きは半生で食べるのが一番旨い食べ方だ』・・・・・・と、はばからなかったので、それが要因と俺は見ている。やっぱり寄生虫は怖いと再認識したものだ。父上様と母上様が、表面が焦げるまで焼いてたのは寄生虫避けなんだろうな、と気が付いたのである。


 その次の年の冬には、一番上の姉上様が死去。要因はよくわからないがおそらく凍死。享年11歳くらい。普段は家族で固まって寝ていたのだが、しばらく腹を下していたらしく、夜中にトイレに行ってそのまま戻れなかった様で通路で冷たくなっていたそうだ。

 この世界、医療が発達していないので、何かが起きれば死に直結することを強く再認識したものである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る