第5話

 無いわけでは無い。俺が欲しい能力は『能力の限界突破』だ。


「能力の限界突破? そんなのでいいの? 限界無しでどこまでも成長したいってこと?」


 そうだ。上限をなくしてイチから鍛えたい。


「最初から強いほうが楽なんじゃないの?」


 そんなものは楽かもしれないが『楽しくない』だろう? 自分で苦労して鍛えるから楽しいのさ。最初から強いとか、俺には何の価値もないな。


「へぇ、やっぱり変わってるね。欲しいのはそれだけ? そんな軽いお願いなら問題ないよ」


 まだくれるのか? なら、後は『魔法の才能』かな? やっぱり魔法も気になるからな。最初からサイキョーなのは要らないが。


「判った。んじゃ、魔法の才能と能力の限界突破だね。初期能力が低いままなら簡単だよ。あ、あと言語能力もつけとくね。心が大人なまま新しい言語を覚えるのは大変だろうからね。これもサービスしてくよ。んじゃま、チョチョイのホイのポポイッと」


 そう言いながら、いつの間にか取り出したのか、魔法のステッキのような物体を振り回しながらくるくる回っている。 

 なんなんだろうなこのポンコツは?


「ボクはポンコツじゃないって! こういうのが様式美っていうんじゃないの!?」


 ポンコツは皆そう言うんだ。そんな様式美は知らんしな。

 あ、そうだ、もし可能なら成長しても背の低いに感じにしてくれないかな? 生きてた頃は背が高くて苦労したんだ。もうあんな思いはしたくない。


「へ? 背が低いのが良いの? 普通は逆なんじゃ?」


 良いんだよ。低いほうが。さらに注文つけるなら、普通の人間っぽいほうが良いな。モフモフな獣系人種も捨てがたいが、モフモフは愛でるものだ。愛でられる方になるのはマジ勘弁。


「一方通行の愛ってやつだね」


 そんなもんじゃないとは思うがな。


「うんうん。判ったよ。そうしておく」


 他には何かあったかな? うん。もう無いな。十分だ。


「あ、そうだ? キミの死因とか知りたくない? いや、知りたいはずだよね?」


 いや、特には興味ないが。何らかの事故で死んだってのは何となく分かるがな。


「自分の死因を気にしないってほんとオカシイよね? まぁ、あれだよ、端的に言っちゃうと、頭上からの落下物による圧迫死」


 ふむ。バスの上に何か落ちてきたのか?


「そそ、建設途中のビルから大きな鉄骨がドスーンと」


 んじゃ、その落下事故でほかにも死人が出たんじゃないのか?


「それが被害者は、座席にすわらずに立っていたキミだけ! ホンッと、ついてないよね。そういう面で見たら、死因も背が高いからってことになるのかな?」


 まじかよ!


「あ、珍しく動揺してるね」


 そりゃ動揺もするわ! 結局、背が高くてもいいことなんかなかったってことだな。うん、背があまり伸び無い感じの転生、滞ることなく頼むぞ。


「あ~、そっか。判ったよ。んじゃ、そろそろ異世界に行っとく? ってか、そろそろ滞在時間も差し迫ってるし送っちゃうね」


 滞在時間なんてものがあるのか。うん。好きにしてくれ。俺にはもともと選択権がなさそうだしな。


「あはははは。まぁ、そうなんだけどね。ここは神の世界だからね、滞在時間が長いと魂が変質しちゃうのさ」

 

 それはそれで構わないが。まぁ、なかなか楽しかったよ。あっちの世界でも・・・・・・忘れなかったら憶えておくよ。


「ボクをしっかりと覚えてて、ボクを崇め奉るといいよ!」


 あ、それは無理。


「あはははは。正直なのは美徳・・・・・・なのかな? うん、ボクも楽しい時間を過ごせたよ。次に会うときはキミが死んだあとかな?」


 んで、またほかの異世界に行け・・・・・・とか言わないよな?


「ギクッ! そ、そんなわけないじゃなぁ~ぃ。今回限りだって」


 まぁ、そう言い張るならそれでも良い。俺には選択肢はないしな。


「んじゃまぁ、良い転生を~」


 おぅ、次に死んだらまたよろしくな。


「じゃあね。また会おうね~」


 その言葉とともに、俺の意識は白い世界に溶け込んでいったのであった。

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