第2話
俺には前世がある。
前世があると錯覚してるだけかもしれないが、前世の記憶がある。
ここでは無い世界のありふれたサラリーマンという職についてた。ん? あれは職業か? まぁ、いい、サラリーマンをやっていた。外国語教材の販売営業という怪しいやつだ。月々のノルマがあり・・・・・・思い出せば詐欺師一歩手前な職だったな。スマフォの翻訳機能使えば外国語は話せなくてもよい時代になってたし。
まぁ、前世では遺伝的かそれとも栄養状態が良かったのか、身長が190を超えていて200に届きそうな感じで、普段から不便な思いをしていたものだ。
身長が高ければ良いこともあるだろうって? そんなものは無い! 断言してもいいがそんなものは無い!
背が高いと、高い所から物を取る時には必ず呼ばれるし、異性の平均身長は160位で頭一つ分よりも小さい。見た目は大人と少女だぜ? 最初は背が高いからと褒めてくれるが、すぐに無理が来て別れちまう。電車やバスも最悪だな。足が長すぎて座席に収まらん。常に立ったままじゃないと乗れない。どんなに疲れていても座席には座れない。横向きに座る電車なら・・・・・・と、思うだろうが、横の人に比べて、膝の位置が通路側にはみ出してしまう。その分だけ空間が狭くなるわけで・・・・・うん、あんな視線に耐えるくらいなら立ったままのほうが良いわな。
他にも、ユニットバスに身体が入らないから、銭湯や温泉以外じゃ湯船につかった事は無いし、ベッドや布団もサイズが合うやつがない。服も特注品ばかりで高くつく。ほんと背が高くてもいいことないよな。それでも何とか、日々を暮らしていたんだ。あぁ、そうそう、外国語の教材を売るって面では、背が高いとなぜか信用してくれたな。ハーフとかじゃないのにな。
だから背が高くていいことなんて、一つも・・・・・・は、言い過ぎか、あんまりなかった。
そもそも、俺が死んだのも背が高いからだしな。
そう、あれは、営業の帰りにバスに乗っていたのが、すべての終わりであり始まりでもあった。
「せんぷぁ~ぃ。今日もつかれたっすね~」
この変な口調の愚か者は、俺の後輩で、新入社員の・・・・・・名前なんだったっけ? どうでもいいやつなんで名前すら覚えてねぇや。とりあえずは俺の後輩だ。
「せんぷぁぃは、どうして座席にすわらないっすかぁ?」
はぁ、と、ため息ついて俺は返した。
「前にも言ったろ? 脚がつかえて座席は窮屈なんだよ」
「へぇ~、もったいないっすね」
「なにがだ?」
「せっかくせんぷぁいと一緒に帰れるのに、一緒の席に座れないなんてぇ」
ポッと顔を赤らめて、体をクネクネさせながらそうのたまっていた。
うん、コイツが俺にアプローチしてきてるのは知ってる。朴念仁の振りをしてやり過ごしてるけどな。
身長が150以下しかなく幼児体系。俺の魅力は背が高いことだと公言してはばからねぇ。二人が並んで手をつないで歩いてみろ、それこそ未成年者略取で通報されかねないわ。
「俺は慣れてるからな。大丈夫だ問題ない」
身長差はそう簡単には幸せにはなれん。お前も身長に見合った相手を見つけるんだな・・・・・・と、言おうとしたその瞬間、頭上から凄まじい衝撃と轟音、そして身体への激痛が襲い掛かってきた。
ぐぉぉぉぉ、頭と頸と背骨と腰と膝が痛い! ほんの一瞬で意識が飛び、最後に聞こえてきた言葉が
「ふぇぇぇぇ、せんぷぁいが小さくなっちゃったぁ」
だった。
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