第漆話 彼は秀くん2
「秀くん、秀くん、聞いて聞いて」
秀くんの服の袖を引っ張り、意識をワタシの方へ向けさせる。秀くんはワタシに顔を向け首を傾けた。弟の仕草が可愛いからつい、頬にちゅっとしちゃったけれど。
ワタシのスキンシップに慣れない秀くんは、頬にちゅってする度に恥ずかしがる顔をする。嫌がる素振りは見せないから、嫌がってはないだろうけど、ほら、姉弟って仲が悪くなったりするじゃない?嫌がられたらお姉ちゃんのワタシ泣いちゃうわ。
「何かありましたか、秀与さ……あ、姉者」
また秀与さまって呼ぼうとした秀くんに、拗ねた様子を見せれば言い直してくれた、ふふ、秀くん偉いっ。
「えっとね、一若くんがお仕事くれたの!秀くんばかりに働かせてるじゃない?一若くんに言ったら、一若くんが働く場所で口利きしてくれたの。これで秀くんばかりに頼らなくて大丈夫そう!」
「……一若です、か」
「秀くん?」
いつもの可愛い秀くんの表情が、こわーい顔になる。秀くん、一若くんが苦手なのか、嫌いなのか解らないけど、ワタシの言葉に一若くんの名前が出ると不機嫌になる。
一若くんと
「いえ、姉者は気にしなくて良いのにと思いまして、俺はいくらでも姉者を養う覚悟がございますゆえ」
真剣な表情で告げる秀くん、お姉ちゃん大好きな子に育っちゃったみたい。可愛がり過ぎちゃったかしら。
「でもー、お姉ちゃんとして、ワタシも秀くんの役に立ちたいし。お仕事、頑張って稼いだら秀くんにプレゼント渡したいし」
「ぷれぜんとで、ございますか?」
秀くんがプレゼントの言葉に舌っ足らずな言い方になる、あ、そうか、プレゼントの意味は解らないのよね?
「えっと、プレゼントはね、うーん、あっ!献上品…みたいなもの?贈り物とか、大切な人に贈るものなのよ」
「た、大切……姉者は、俺が大切でありますか?」
「勿論!大切な弟よ、秀くんは。お姉ちゃんの自慢な弟だもの」
そう言った途端、秀くんがぎゅうっとワタシに抱き着いてくる。ふふっ、甘えん坊さんかしら?
「秀くん、甘えん坊さん?」
「……そうでございまする、秀…与さま…」
あ、またワタシにさま付けっ、て思ったけど、悲しそうな声だったから何も言わずにぎゅっとワタシからも抱き締める。
「お姉ちゃん、お仕事頑張るわ。秀くんも応援してね?」
ワタシの言葉に、秀くんは更に強く抱き締めた。秀くん、ワタシ大好きっ子になっちゃったのかしら、お姉ちゃんとして将来が心配よ!
秀くんを抱き締めながら考えた。
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