第捌話 彼は一若くん2

「俺の名前は出さない約束だっただろ?…ま、まあ、秀与らしいが」


困った表情を見せながら、料理をするワタシの背後から抱き締めてくる一若くん。ちらり、とワタシは背後にいる一若くんへ視線を向けた。


奉公先の詳しい話を聞こうと、ワタシは一若くんの家に来ていた。と言っても、エッチしたい時に一若くんの家に来る事が多いけど。


でも今日はそーいう気分んじゃなかったのよ?秀くんが今日は出掛けて来て欲しいって必死なお願いするから仕方なく。


秀くん、きっと溜まっちゃったのね、あの目はエッチを迫る時の男の目と一緒だったもの。お姉ちゃんを襲わないような配慮だわ、うん、秀くん良い子!


「でも、秀くんはワタシの大切な弟だから、ちゃんと言わないと」


「それは、そうだろうけどよ。アレ、俺への敵意とんでもねーから」


「お姉ちゃん取られてヤキモチかも知れないわ」


「……弟が姉を取られての目じゃねーし」


小さく何か言った一若くんの言葉は解らなかったけど声に反応して、背後にいる一若くんへ振り返って笑みを見せる。この笑みは一若くんを魅了させるため、ずっとくっつかれてるからエッチしたくなっちゃった。


「……、ま、取ってるかも、知れねーけど」


近付く唇にワタシは目を瞑り、口付けを待つ。一若くんの唇がワタシの唇に触れる。


「んぅ…、ふふ、ね、料理冷めちゃうけど、平気?」


「冷めても、美味いからへーき、それよりも、秀与食わせてくれね?」


そう言った一若くんの掌が、ワタシの胸を鷲掴む。ちょっと乱暴な仕草なんだけど、そーいうのも好きなワタシは抵抗はせず、相手に凭れかかる。


一若くんはワタシを抱き上げ、布団の方へ。


ワタシを布団へ下ろし、上から被さる様に押し倒す。ワタシの着物の境目を開いて胸を露にされると着物を脱いだ一若くんの顔が胸へ埋められる。ちょっと野獣みたいな一若くん。


「…ほんとは、っ…紹介したくね、けど、一緒にいてーから…っ」


「ん、ぅ、っ、どー、して?」


胸を刺激されつつ、吐息混じりに一若くんが言葉を吐き出した、ワタシは首を傾げて甘い吐息を吐きつつ問い掛けた。


顔を上げた一若くんの表情は、秀くんがこの前見せたような表情。


「絶対、気に入られそうだからな、……様に、っ」


「ん、ぁっ…っ」


最後の言葉は、ワタシの声に被さってかき消された。ワタシの声と共に、一若くんの手や唇が乱暴にワタシの体を貪る。


ワタシを気に入る人がいるのかしら?一若くんも秀くんと一緒でヤキモチ?セックスフレンドな一若くんは一若くんで好きだし、秀くんは秀くんで弟だから好きなんだけれど、それじゃあ駄目なのかしら。


ワタシの体を激しく揺さ振る一若くんを見詰めながら考えた。


ふふ、奉公先にはどんな人がいるのか楽しみっ。

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