反撃
九月中旬。長く続いた残暑もようやく矛を収めた頃のある快晴の日、今年のK高祭が開幕した。初日は5000人の来場者を迎え、盛況のうちに幕を閉じた。
そして、本日最終日。ある二人の計画が密かに進行していた。
その日、岸森正樹は忙しかった。なぜなら、彼が監督を務める8組の演劇が今日の午後に体育館上映されるので、その準備に明け暮れていたのだ。
通常、K高祭のクラス演劇は各クラスの教室でしか見ることはできない。しかし、教室に入れる観客の人数は多くても100人前後であり、せっかく来たのに劇を見られないという来場者が出てきてしまう。そこで、より多くの来場者が劇を観ることが出来るようにするため、体育館上映が行われる。各クラスの劇は文化祭の2日間のうち1回だけカメラによって撮影され、リアルタイムで体育館のスクリーンに映されるのだ。
岸森は8組の責任者として映像機器の手配などの指示を出していたが、無事に体育館上映が始まったことがわかり手が空いた。
小野田理恵から彼の元へメールが来たのはそういうタイミングだった。
「50分後に地学講義室に来てください。お話があります」
50分が経って、岸森は地学講義室にやってきた。一般教室の並ぶエリアは満員電車かと思うくらいに来場者でごった返していたが、地学講義室の周りには人が全くいない。展示も何もないからだろう。彼は扉を開ける。昼間なのに部屋は真っ暗だった。窓に暗幕が貼られているようだ。
リエはなんでこんなとこに、と怪訝に思いながら岸森は一歩足を踏み入れる。
その時だった!
彼の足は何かに掴まれたかと思うと、次の瞬間に彼は宙吊りになっていた。
「!?」
突然のことに彼は声にならない悲鳴をあげる。
「ねえ、監督さん。知ってます?」
暗闇から声が聞こえてきた。
「あなたのクラスの舞台、大道具を素早く収納するために、滑車を利用してるんですよ。これが、丈夫な滑車でしてね、例えば、人を手っ取り早く宙吊りにするのに使っても壊れないんですよね」
「誰だ、お前は!」
岸森はぶら下がりながら叫ぶ。
「これは失礼」と姿なき声。
「ただの内装チーフ代理ですよ。元ですけどね」
暗闇の中で岩木がニヤリと笑った。
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