大根役者
小野田理恵は耐えていた。自分の詩が悪意を持って朗読される屈辱に。自分の浅はかさを呪った。この男に詩を渡したこと、そもそも、この男を本気で好きだと思ってしまったことを心の底から呪った。いっそ自分を呪い殺せれば楽なのに。
その時だった。
バコっ!
鈍い金属音が教室に響いた。前を見ると、目の前で岸森が伸びている。
え、なんで急に?
「あーあ。教室に忘れ物してしまった〜」
教室に岩木京平が入ってくる。
「あ、小野田じゃん。まだ、残ってたんだ。って、おお!こんなところに岸森が伸びてる。おおーい大丈夫か。何でこんなことに。あ!鍋が落ちてる。ああ〜、なるほど。たまたま『工具移送システム』の紐が切れてたまたま下にいた岸森の頭に運悪く当たっちゃったのか〜。かわいそうにー」
棒読みでベラベラと一人で喋ってる。普段はあんまり喋らないのに。そして、くるりと振り向く。
「小野田、お前は大丈夫なのか?」
そんな言葉まで学芸会のセリフみたい。せっかく良い演出したのに詰めが甘いなあ、全く。
「ありがとう、岩木くん」
「はあ?何でお礼?俺は忘れ物を取りに来ただけだが。意味がわからない」
はいはい、そこでムキにならない。
この大根役者め。
思わず笑ってしまう。きっと、笑いすぎたせいだ。
耐えていた涙が溢れてしまったのは。
***
岩木がくるりと振り向くと小野田が笑っていた。笑うな。自分でも慣れないことをしているのはわかっている。
「ありがとう、岩木くん」
小野田は珍しく神妙だった。らしくないな。
「はあ?何でお礼?俺は忘れ物を取りに来ただけだが。意味がわからない」
ふと彼女を見上げると右手で目を隠していた。その行為が何を意味するかわからないほど岩木は鈍感ではない。
「おい、小野田・・・」
「違いますよ〜。これは笑いすぎただけですよ〜」
明るい口調を作っているのがバレバレだ。ごまかすつもりなら嗚咽はもう少し上手に我慢しなくちゃな。
この大根役者め。
「もう、こっち見るな〜」
「へいへい」
お望みの通り岩木はそっぽを向く。
「岩木くんってさ〜」
「ん?」
「ツンデレ?」
「はっ!?違うし」
岩木がムキになって振り向くとそこにはいつもの笑顔があった。それを見て、ああ、やっぱり、こっちの方がいいな、と岩木は感じた。
もちろん、本人には内緒だが。
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