K高祭準備、始動!

 そこにはクラスTシャツを着た女子生徒の姿があった。

 ・・・ただもう、彼女は生きてはいないだろう。

 首や手足をダラリと下げて、天井から首を吊っているのだから。

 岩木はパニックになる。

 第一発見者じゃん。どうしよう、とりあえず、警察、いや、救急車か・・・

「期待以上のリアクション、ごちそうさまです!」

 首吊り死体がニコッと笑った。

 

  ***

 首吊り死体は首にかかった縄をほどき、お腹の方をいじるとストンと床に着地する。

「首を吊ってるように見せて、それはフェイク。本当はお腹に回したベルトで天井からぶら下がっていたのでした!」

 はあ、えっと・・・

「何のために?」

「イタズラ大成功!、と言うためかな」

 たいそうご満悦な表情の元・首吊り死体は、二つ結びがよく似合うどこか幼げな少女だった。小野田理恵おのだ りえ、岩木のクラスメイトだ。

 あまり、喋った記憶がなかったが、だいぶエキセントリックな人ということがわかった。

「いや〜、朝からいい声出てたね、岩木くん」

 彼女はクスクスと笑う。

「いや、だって、死体だぞ・・・」

 岩木は気恥ずかしくなって、話題を逸らすことを試みる。

「小野田はだいぶ早くから来ていたんだな」

「まあね」と言うと、彼女は教室の隅にわずかに残った机の方を指差す。

「あれを作ってたんだ。」

 そこには、迷彩柄の布地が置いてある。演劇に使う小道具のようだ。

「小道具チームの人なのか」

 岩木の発言にふるふると小野田は頭を振る。否定されたらしい。

「私は小道具チームの助っ人なのだ」

 彼女は誇らしげに胸をそらす。なるほど、良かった。朝から死体になりきるだけの人ではないようだ。

 さて、と岩木はあたりを見回した。『内装チーフ(代理)』は何をすればいいのか。教室後ろの黒板に「内装」と書かれたファイルが置いてあるのを見つけた。

 開いてみると設計図が出てくる、出てくる。舞台、客席、壁、控え室・・・etc.木材の組み方の手順などが詳細に記されている。さすが駿だな、と今この場にいない友人に岩木は感歎する。

「へえ、岩木くんは内装チームなんだ」

 後ろから小野田が興味深げに設計図を覗き込む。

「ああ、小宮の代理だよ」

 まあ、このぶんだとそんなに仕事はないだろうな、と岩木は思う。『内装チーフ(代理)』とはこの設計図通りに内装が完成するよう、内装チームのメンバーに指示を出す役職だろう。ところが、すでにこの設計図には偉大な『内装チーフ(本物)』によって細かい指示が書かれている。『(代理)』の出る幕はそんなにないだろう。

 ・・・そう、思っていた。

「そっか。それはまた大変な役を引き受けてくれたね」

 感心したように彼女がつぶやくのを聞くまでは。

「え、そうなのか?」

 岩木は驚いて小野田の方を見た。

「うん」と彼女はうなづいた。「だって、あれを切るんでしょ?」

 そう言って彼女は教室廊下側の壁を指差す。

 その指先を見て岩木は唖然とするしかなかった。

 

 ・・・そこにうずたかく積まれた木材の本数を岩木はまだ知らない。

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