第37話 王国ではなく国王崩壊(一)
馬鹿は死ねば治ると思った。だが、一度死んだら悪化した。二度死んだら発狂した。こんな奴どうやって補佐しろって言うのよ!』――月帝国皇后 伽具夜の言葉
椿の首は転がり、視界が真っ暗になって行く。ここまでは前回も体験済みだ。このまま、電気の切れたパソコンのように、一切の思考が止まるのが死なのだろうか。
死んでも構わないかな。あんな狂った世界でまた戦争をやらされるくらいなら、もう、眼が覚めなくてもいい。
思えば、アクション・ゲームは好きだが、ストラテジーという分野は、ほとんど手を出してこなかった。戦争ゲームと割り切って、軍拡という選択肢を選んでも結局は役立たずで、無能だった。ストラテジーなんて嫌いだ。
(でも、可哀想なのは、狂った世界で指導者が替わっても永遠に戦争をやらされる、国民だよな。この世界を作った神様は、なんて残酷なんだ。もう、辞めさせてとお願いしたいよ。全く)
椿は中々意識が途切れないので、もしやと思った。
瞼が閉じた感覚。それに柔らかなシーツの肌触りを感じ、再び狂った世界の生き残りゲームに戻された予感がした。
眼を開けると、黙って椿を見つめている裸身の伽具夜と眼が合った。どうやら、ポイズンに引き渡されたのは椿だけで、伽具夜はバルタニアに連れて行かれていたらしい。
伽具夜は少しだけ表情を緩め、微かな絶望感を滲ませて、言葉を掛けてきた。
「お帰りなさい、国王様。これで、二度は死んだわね。今回がラストプレイかもね。もっとも、前回もひどい負け方をしたから、より状況が悪くなってのリスタートだけど、生き残る自信はある?」
「そんなもの、あったら、今ここにいないよ」
伽具夜は簡単に、椿が鳥兜に首を斬られた後の展開を教えくれた。
「前回の勝者は、バルタニアよ。鳥兜がガレリアのリードの首を取って、最後に残ったバルタニアの指導者の首を刎ねる前に、バルタニアの指導者がカイエロを集めて、元いた世界に帰還して行ったわ。私もバルタニアに軟禁されていたから、最後まで世界の行く末を見られたわ」
結局、顔も名前も知らない人間が、また勝者となっていた。前々回のガレリアが勝者だった時もそうだが。椿は勝者の顔を全く知らないし、相手にもされなかった。
こうなってくると、勝利とは縁がないのかもしれない。
椿はタオルケットを手繰り寄せて、頭から被りながら答えた。
「もう、いいよ。俺はこの世界の神様の要求に応えられそうにない。今日は少しここで寝かせて。一日くらい寝ていても、国は滅んだりしなさそうだし。戴冠式と閣議は一日延期して、新しい指導者には定型文で挨拶状でも送っておいてよ」
「今度の新しい指導者には、コルキストやロマノフ、ポイズンの容赦のない危険性を忠告しなくても、いいのかしら」
「教えなくいいよ。見抜く奴は、見抜く。ダメな奴は、警告してもダメさ。イブリーズにやってきた時点での指導者としての素質が物を言うみたいだしね。能力があればリードのように振る舞い、ダメなら俺のように忠告を受けても、二度も首都まで落とされるのさ」
「外交の才能がないのを、ハッキリと認めるのね」
椿は自嘲的に自己評価を付け加えた。
「ついでに、軍事、経済、科学、宗教、どの才能もないよ。指導者として向かないのも認めるよ。俺は所詮、ちょっとアクション・ゲームが上手いだけの高校生。オンライン・ゲームの天上天下唯我独尊をやっていた頃が懐かしい」
伽具夜は別段、怒らず、励まさず、感想を述べた。
「遂に、諦めモードに入ったようね。時々いるのよ。自分が凡人である事実に気が付き、噛ませ犬でしかない事実を知って、死んでいく指導者がね。今回は、始める前から諦めて、消滅を覚悟するのね」
そこで伽具夜は、少しだけ好意的に言葉を続けた。
「だったら、イブリーズから消滅する前に、暴君やってみる? 人は殺すわ、女は犯すわ、毎日のように宴会をして、お祭り騒ぎをして、国民を省みないで死んでいくの。凡夫の最後の死に方としては、いいほうかもよ」
椿は気だるさを隠さずに答えた。
「いいよ。そこまでやる気もないし。勇気もない」
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