第36話 軍拡に走ったら、こうなった(九)
閣議室の扉が破壊され、入って来たのは、カーキー色の服を着た兵士だった。確か、カーキー色の服はコルキストでもロマノフでもない、バルタニアの兵士だ。
二人は一緒に港まで連行され、別々の軍艦に監禁された。
椿はバルタニアに連れて行かれ、初めて会うバルタニアの指導者に首を刎ねられると思った。
長い時間ぐらぐら揺られる艦内で、どういえば伽具夜だけは見逃してもらえるか、考えた。だが、名回答は浮かばなかった。
長い船旅の先に着いたのは、紫色の大きな洋館が立ち並ぶ、ちょっとホラーチックな街だった。軍艦を降りたのは、椿が独りだけだった。
(伽具夜はすでに連れていかれてしまったのだろうか)
軍艦を降りてドラブ色の服を着た兵士に引き渡された事態が、最悪の展開を物語っていた。
連れて来られたのはポイズン領内だ。ということは、今いるのは鳥兜が支配するポイズンの首都。処刑確定だった。
ポイズンの兵士は、前にも見た記憶のある銀色のリングを椿の服の上から通した。すると、前回と同じように、リングが閉まって体を拘束した。
そのまま、ポイズンの民衆が見物するなか『首切り広場』と銘打たれた大きな広場に荷物のように運ばれた。
『首切り広場』の周りを厳重に警護する兵士の輪の中に、真っ白な着物姿で、下駄のような処刑台に腰掛けた鳥兜が待っていた。
もちろん、鳥兜の横には前回に見たのと同様の、大鎌が用意してあった。
処刑台に腰掛けていた鳥兜が、公園でたまたま会った友人にでも挨拶するように、にっこりと微笑み「こんにちは」と声を掛けてきた。
椿はもう、鳥兜の格好を見て、覚悟を決めていた。
「こんにちは、鳥兜さん。またこうして直にお会いしましたね。美しい貴女と会えて嬉しさのあまり、膝が震えてきそうですよ」
鳥兜は腰掛けていた処刑台から立ち上がった。
「ほんまどすかー。嬉しゅうおすわー。若い男の子の首は、斬り応えありますさかいに」
処刑台の上に仰向けで体をポイズンの兵士に固定されながらも、椿は尋ねた。
「一つ、聞いていいですか? 伽具夜は、どうなりました? やはりもう、首を刎ねたんですか。それとも、俺の次ですか。まだ、首を刎ねてないなら、伽具夜の首だけは勘弁してもらえませんか」
鳥兜はどこか恍惚とした表情で答えた。
「気になってまっしゃろか。ふふふ、でも、それを教えたらおもしろおへん。ほな、スッパといかせてもらいますさかいに。今度は二回目やさかい、仰向けでいきます」
椿は鳥兜に伽具夜の扱いを教える気がないのを理解したので、仰向けのまま眼を閉じた。
椿はふと、伽具夜が死ねば消滅という状況は、この狂った世界から消えられる良い機会ではないかとすら、思った。
鳥兜から不思議そうに発言する声が聞こえてきた。
「おや、眼を閉じて笑っとるんどすか? そんな首を刎ねるのも、また一興どすなー」
首の後ろに冷たい刃が当てられて、大鎌が引き上げられた。
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