第29話 軍拡に走ったら、こうなった(二)
大阪奪回作戦は、仙台とは逆に難航し、半年にも及ぶ消耗戦という最悪の展開に突入していた。いくら、東京や堺で生産した兵器や歩兵を回しても、溶けるように消えていく。
かといって、何もしなければ、戦況が悪いほうに傾きそうなので、戦力の逐次投入がやめられない。
また、仙台の守備もおろそかにすれば、すぐにコルキストが軍を送って奪い返しにきそうだった。コルキストに停戦を持ちかけてみたが、ソノワは徹底して停戦を拒否した。
仙台はコルキストが撤退間際に軍関連の工場を破壊していったので、修理に手間取り、兵器の生産ができなかった。
やむなく、陸奥で生産した兵器や徴兵した歩兵を仙台に回さねばならず、大阪にまで兵を回せなかった。椿は椿自身が下した作戦が、物の見事に裏目に出ていると思った。
(やべえ、これ、またも事実上の二方面作戦だよ。やっちゃあいけない戦い方だったよな)
椿は早くリードが対ロマノフ戦に参戦しないか、気が気ではなかった。椿はリードとの直接会談により局面を打開しようとしたが、リードは直接会談には出ず、外務大臣が応対する。
ガレリアの外務大臣は催促する度に「もうすぐ参戦します」「いま参戦します」「もう出ました」と中々届かないラーメン屋の出前のような態度をとるので、段々苛立ついてきた。
そうしているうちに、作った兵器は作った側から消えて行き、戦死者だけが膨らみ、国民の不満だけが増大していく。
そんな、ストレスフルな状況のためか、椿は自室で不貞寝状態になってしまった。毎日が不貞寝状態だったが、ある日、まどろみの中、部屋の扉が開く音が聞こえた気がした。
柔らかい手が、椿の手にそっと触れた気がした。誰が手を触れたか確認しようとしたが、一服でも盛られたように、意識が判然としなかった。
椿の親指の何かが触れたと思ったら、すぐに椿の親指がひんやりしたアルコールを含んだ脱脂綿で拭かれ、離された。
椿の意識がはっきりして起きた時には、部屋には誰もいなかった。夢だったのだろうかと思ったが、現実だったような気もする。
そんな、ボーッとした状態の椿の部屋を、笑顔のバレンが訪れた。
「国王陛下、良い話と、とても良い話と、凄く良い話があるのですが、どれから聞きたいですか」
絶対に嘘だと思った。
「それ、本当は、悪い話と、とても悪い話と、凄く悪い話の間違いとか、言わないよね?」
「もう、疑り深いですねー。じゃあ、良い話からお話しますね。わが国でついに、カイエロが発掘されました。カイエロは〝天元の盾〟です」
伽具夜が前に、資源が少ない場合、国にアーティファクトが多めに眠っている確率が高いという話をしていた。本当に掘り当てたのなら、確かに幸運だ。
「え、ほんとうに出たの? 〝天元の盾〟って、効果はどんなの? 経済がよくなるやる版の強力なやつ?」
バレンは苦笑いしてから教えてくれた。
「詳しく説明してもわからないと思うので、簡単にいいますが、超重量子シャイターン・フィールドを発生させる装置です」
「ごめん、簡単に言われても、わからないよ」
バレンが執事の分際でありながら、一瞬だが「もうダメだ。本当にコイツ使えねーわ」と露骨な表情をした。
「超重量子シャイターン・フィールドは科学省の中で、理論的に作り出せるが、実現は不可能と言われる力場の一種です」
どうやら〝天元の盾〟が凄いアーティファクトらしいのは理解した。だが、問題は使い道だ。
「よくわからんが、軍事的に利用可能なのか?」
バレンは執事の顔で滔々と説明した。
「はい、強力なバトル・ドミネーターを製造する技術にも利用可能ですが、我が国はバトル・ドミネーター関連の技術開発が遅れているので、無理です。でも、ご安心を。都市防御には、すぐに使えますから。それが、とてもいい話です。現に伽具夜皇后様がカイエロを利用して、首都に超重量子シャイターン・フィールドを利用した天元防壁と呼ばれる武装防壁を設置する工事を始めています」
椿は直感的にバレンがぼかして発言した「工事を始めている」に、すかさず突っ込んだ。
「ちょっと、その、とてもいい話、待った! 工事っていえば小さな出来事に聞こえるけど、首都を守る防壁の改築は、大規模公共事業になるよね。俺、そんな、予算を許可した覚えはないよ」
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