第28話 軍拡に走ったら、こうなった(一)

 戦勝ムードに沸く東京の元に、大量の略奪品を持った軍務大臣が帰還した。すぐに、閣議室で閣議が行われた。


 軍務大臣が意気揚々と成果を発表し終わると、伽具夜が椿に尋ねた。

「で、どうするのよ。仙台は」


「自治都市にしておくと、勝手に降伏するおそれがあるから、直轄都市にして、兵器工場を修理して、徴兵と兵器の増産に特化するよ。コルキストが奪還にしに来るかもしれないからね」


 伽具夜が嫌味を含んだ口調で確認してくる。

「そうね。軍事政権の独裁者なのだから、好きにすればいいわ。でも、仙台から略奪した富は、予定通りに私と宗教大臣で使うわよ」


「いや、それは、新たな兵器の開発費用に――」

 伽具夜の顔が険しく歪んだので、後半の言葉を変更した。

「――使わず、伽具夜が使いたいように使ったらいいよ」


 伽具夜の顔が元に戻ったところで、外務大臣が口を開いた。

「御報告がございます。ロマノフが月帝に宣戦布告しました」


 椿が何か言う前に、伽具夜が口を開いた。

「そうだったわね。でも、堺には、東京で徴兵が完了した兵をすぐに歩兵として回しておくように軍務大臣に命令しておいたから大丈夫でしょう。仙台から戻った兵も加えれば問題ないわ。あとは、ガレリアのリードが約束道理に動けば、ロマノフは身動きがとれなくなり、真っ先にロマノフが退場ね」


 椿は大声が上げた。

「ちょっと、ストップ。ストップ、俺、ロマノフが宣戦布告してきた情報を聞いてないよ」


 外務大臣が問題ないとばかりに口を開いた。

「はあ、ですから、今こうして報告を」

「違うでしょう。なんで、国王の俺が知らないで、皇后の伽具夜だけが知っているの? しかも軍務大臣に命令しているんだから、最近の情報ではないよね」


 伽具夜がそんなつまらない言葉を言うな、とばかりに口を挟んだ。

「あーあ、そうだった。まだ言ってなかったかしら。ロマノフは月帝が仙台を攻略すると同時に動いたわよ。夜中だったから起すと悪いと思って、軍務大臣に指示を出して、翌朝、私から報告しようと思って、忘れていたわ」


「いや、そこ、忘れちゃダメなとこだよね。王様の腕の見せ所だよね」

 伽具夜が馬鹿にしたように、酷評した。

「王様の腕? そんなものを振るわれたら、十回戦って十回勝てる戦いも、十一回負けるわよ」


 本来ならこんな越権行為をする伽具夜を幽閉するなり、処罰するのが軍事政権なんだろう。

 けれども、全閣僚プラス執事まで伽具夜派なので、伽具夜の処罰に走れば、今夜にでもクーデターが起こり、政権がひっくり返ること間違いなしだ。


 その結果、逆に椿がどこかの高い石造の塔か監獄にでも幽閉という展開が眼に見えているので、何も言えなかった。

(やっぱり、これ俺の軍事国家ではないよな。伽具夜の軍事国家になっているよね)


 椿が黙ると、軍務大臣が報告に入った。

「堺方面は現状では問題がありません。これに仙台が攻略に回していた部隊が合流して反撃にでれば、押し返せると思います。ガレリアが約束どおりに動けば、大阪奪還も可能でしょうが、ガレリアには、まだ動きがありません」


 椿はまた裏切られるかもと、疑心暗鬼になった。

 椿の不安に追い討ちを懸けるように、科学大臣が口を開いた。

「軍事関係の技術を開発していますが、資金難に陥っています。このままでは、通常兵器の改良程度の技術開発ができても、バトル・ドミネーターや海軍関連の開発が無理です」


 経済大臣も追い討ちを懸ける。

「国の軍一辺倒に偏り過ぎて、歪みが生じています。軍需関連産業は良いのですが、その他の産業の育成が遅れています。このまま行くと、軍の崩壊が経済の崩壊と直結します。その他の産業の育成に力を入れないと、あとで取り返しかがつかない事態を招くかと」


 すると、軍務大臣までも口を開いた。

「我が軍ですが、海軍の編成が皆無に等しい状況です。ロマノフを追い詰めるには、歩兵中心の軍事力の強化だけでなく、そろそろ海軍の増強を始めなくてはなりません。また、バトル・ドミネーターの配備も、対コルキスト制圧を考えると、そろそろ着手していただけませんと」


 椿はうんざりした。また、予算の獲得合戦が始まったと思った。各大臣の言い分には皆それぞれ一理ある。けれども、お金は降って湧いて出るものではない。

 もちろん、紙幣の増発という手段もあるが、下手に紙幣の増発に踏み切れば、国内でインフレが起こり、手が付けられなくなると本で読んだ記憶がある。


 どうしようかなと悩んでいる時に限って、伽具夜は助け舟を出してくれない。というか、やっぱり軍事国家はまずかったのかなという思いが頭を過ぎった。

 あまり悩んで結論を出せないでいると、閣僚たちの椿に対する信頼は失われていくので、のんびりもしていられない。


 椿は思い切って宣言した。

「現状のままでいい。国家運営は、このまま歩兵中心の部隊編成でいく。まずは悲願の大阪奪回だ。バトル・ドミネーターの開発や海軍の編成は、後回しにする」


 椿は軍務大臣を見て命令を発した。

「堺の防衛部隊は新たに加えた、仙台を攻略した部隊と共に、大阪奪還を目指してくれ。リードは必ず動くはずだ」

 軍務大臣だけが機嫌よく頷くなか、伽具夜が閣議閉会を宣言して、閣議は終了となった。

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