第26話 軍拡万歳(五)

 軍事国家にするといっても、都市は首都東京を入れても三都市しかない。お金もなければ、輸出する資源もない。ただ、東京と堺は、人口だけはあった。


 椿は軍事国家の主力として、お金の掛からない歩兵に絞って軍事国家への道を進んで行くと決めた。一月ごとに起きて、状況を確認するが、しばらくはどの国も目立った動きがなかったので、のんびりとした時間が過ぎた。

 とはいえ、着実に徴兵による月帝領内の国民の不満は高まっていっているようであった。


 六ヶ月後に、久しぶりに閣僚全員を招集して閣議を開いた。

 次回より閣議は赤い軍服着用と命じてが、各大臣は服の色を赤く変えただけで、格好は変わってなかった。

(なんか、低予算RPGの使い回しのモブキャラみたいな、大臣たちだな)


 もちろん、黒い衣装を着るのは、椿の喪に服するためであると宣言をしていた伽具夜はポリシーを変えずに、黒いドレスを着ていた。

 椿は閣議の冒頭、命令を聞かなかった大臣たちに注意を促した。

「閣議は赤の軍服着用と命じたはずだが、なぜ服の色しか変わっていないんだ」


 ビン底眼鏡に赤の白衣という、普段は見ないような格好の軍務大臣が意見した。

「軍の服装規定が変わりました。各大臣の着ている服は新たに軍服として登録されたので、国王様の言いつけは、私も含めて守っています」

「規定を変えたの? いつ?」


 伽具夜がからかうような顔で、面白そうに発言した。

「閣議に軍服着用の命令が出た一時間後ぐらいだった気がするわ。各大臣から今、着ているのと同じ格好を軍服として認めるように嘆願があったから許可したけど、まずかったかしら? 軍服の規定は軍務大臣が決められるから、月帝では規則的に問題ないはずよ。椿の趣味って、どうも好きになれないから、いいんじゃないかしら」


 小さな案件だが、初回でまた躓いた。いや、伽具夜に足を引っ掛けられた。

 これじゃあ、制服を統一した意味ないよ。と言うか、スーツや袈裟スタイルの軍服って、明らかにおかしいだろう。


 椿は「俺って、とことん否定される立場なんだな」と、しみじみ感じた。

 もう、国王権限で「格好はこれ」と決めようと思った。だが、どう決めても伽具夜が気に入らないと、この国ではどんな手を打っても、抜け道を見つけて来るだろう。


 なので、一同が赤い軍服で集まる閣議の映像を目にして、国王に忠誠を誓う光景を見るのは諦めた。


 椿がさっそく、軍務大臣に報告を命じた。

 軍務大臣が自信たっぷりに報告した。

「東京と堺は人口が多く、失業者も多い状態なので、徴兵は順調です。歩兵を中心に軍を編成した結果、歩兵だけは順調に集まりつつあります。現在歩兵だけでも七万の兵がおりますが。おそらく、あと一年もあれば、さらに十万人以上が集められます。戦闘機も軍需工場より四十機の生産完了予定です」


「ロマノフの都市になっている大阪や、コルキストが支配する仙台の兵力は、どうなの。けっこう、いそう?」


 軍務大臣は得意げに進言した

「詳しい規模はわかりませんが、そう多くないかと思われます。特に仙台方面が手薄です。仙台は兵の少なさを補うために、武装防壁の強化工事に入っています。工事完了前なら四万人くらいの歩兵で攻めても落せます。犠牲も兵の半数程度と言ったところでしょうか。仙台を攻めますか?」


 え、半分って、二万人も亡くなるの! 世界がリセットされるたびに、生まれてくる国民だからといって、なんか可哀想な気がする。けれども、一年後にはさらに十万人の歩兵が誕生する予定だ。


 ダメだ、ここで下手に兵を労れば、仙台奪還は不可能になる。ここは犠牲を払っても仙台を奪取しなければ。

「軍務大臣、仙台攻めを許可する」


 伽具夜が椿に向って、批判するように口を開いた。

「東京は人口が多い割に、軍関連の産業にしか力を入れてこなかったわよね。現在、失業者が多いから、歩兵はどんどん集まってきているようだけど、娯楽施設もなく、民の心を支える寺院もない。経済は軍需でどうにか回っている状況よ。国民の不満はかなり高まっているわ。放置してもいいのかしら?」


「名案でもあるの」

「仙台を落したら、コルキストが仙台に溜め込んでいる金を略奪して、宗教省に回してやったら、どうかしら。資源が少ない場合、国にアーティファクトが多めに眠っている場合が多いのよ。勘だけど調査発掘をしたら、何かいいものが出るかもしれないわ。ひょっとしたら、カイエロが発掘できるかもしれないわ」


 予算が極限まで削られている宗教大臣が、伽具夜の提案に無言で何度も頷いていた。

 確かに前回マイナーなアーティファクトだが、効果はあった。だけど、仙台から略奪って、本当にそんな行為に及んで大丈夫だろうか。

 というか、仙台から得られものがあるのなら、戦いに貢献した兵士に報いたほうがいいんじゃないか。


 伽具夜は、椿の心を読んだように勧める。

「仙台はコルキスト領になっていたんでしょう。だったら、通貨はコルキストの紙幣が流通しているはずよ。コルキストはしばらくは安泰でしょうけど、ガレリアが巨大化したら、いずれコルキスト紙幣は暴落するわ。だったら、価値のあるうちに国庫に残さず、さっさと使ってしまいなさいよ。もし、軍事的アーティファクトが出れば、軍事国家の寿命が延びるわよ」

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