第25話 軍拡万歳(四)
通信部屋でガレリアに連絡を入れた。急な会談の申し込みだったので、しばらく、待たされるかと思ったが、すぐに通信が繋がって、映像が出た。
相手は女性だった。ただ、一目見て、堅気の人間ではない気がした。
女性は、顔の一部に刺青があり、オレンジ色の髪を短く切っていた。年齢は二十代後半くらいだが、修羅場を潜ってきたのか、目線は鷹が獲物を狙うように鋭かった。
服装は、胸元の襟が大きく開いたったクリーム色のシャツに、麻布の茶色のズボンを穿いており、一言でいうと、女海賊といった感じだった。
一目会った時から、居心地の悪い威圧感を感じた。それでも、どうにか威圧されないように気をつけながら、発言した。
「月帝国の国王、椿幸一といいます。今日は挨拶を兼ねて、御忠告しに来ました。貴女は西のポイズンと東のロマノフの二国によって狙われています」
女の鷹のような眼が一瞬ギラリと光るが、どこか邪険に椿をあしらった。
「御忠告、痛み入ります。と、でも言って欲しかったのかな? そんな事実は疾うにわかっているよ。それに、テレジアという女。あれは嘘吐きの顔だ。鳥兜にいたっては、殺人狂だろう。顔を見りゃ、わかるよ」
どうやら、神様はこのデス・ゲームにふさわしい人間を選んできたらしい。この女性なら簡単に三年未満で、首都まで失う事態にはならないだろう。
ただ、あまり切れる人物は好ましくない。有能な人物=椿の敗北に繋がる。
椿は、この手の人物は下手に出ると拙い気がしたので、強気で言葉を投げかけた。
「失礼ですが、こちらは名乗りました。まだ、お名前を伺っておりません。まず、名前ぐらい名乗るのは礼儀ではないですか」
椿の精一杯の強気は、相手の女性に鼻で笑われた。それから、相手の女性はどこか見下し、からかうように詫びた。
「これは失礼、椿国王陛下。格下相手に一々名乗る習慣がなかったので、すっかり忘れていました。私はガレリアの
(自分のこと、
椿は一瞬びくっと心がたじろぐも、すぐに気を取り直した。
リードのいるガレリアとは国境も接していないし、国も軍事国家化する予定なのだ。人間としては格下扱いされても、国家としては、格下扱いにはされないだろうと考えた。
椿は気を取り直して、提案した。
「わが国は、西にあるロマノフ領を併合するつもりです。貴女も東にロマノフ領がある。どうです。ロマノフに対して共同戦線を張りませんか」
リードはいったん馬鹿にしたように大きく笑ってから、辛辣な言葉で話した。
「おぼっちゃん国王と組む気はないね。と、言いたいところだが、いいだろう。椿がロマノフ攻めを開始したら、私もロマノフに兵を進めるとしよう。まず、嘘吐きお嬢さんから、ゲームから退出、願おうじゃないか」
椿はそこで、もう一つ提案した。
「コルキストのソノワにも、この話を持っていきますか」
ドン・リードは、すかさず椿を罵倒した。
「馬鹿か、お前は。コルキストまで誘ったら、私の取り分が少なくなるだろう。それに、コルキストのソノワはどうも気に入らないね。あいつは、我々の話を知ったら、口では協力するというが、背後で絶対ロマノフを援助する。ソノワはそういう性格だよ。コルキストを誘うなら、この話は、なしだ」
せっかく初めての同盟が崩れるのは痛いが、コルキストがロマノフを援助してくれるなら、ガレリアの初見のアドバンテージを削げるんじゃないだろうかと考えてしまった。
画面向こうのリードの眉が僅かに撥るのが見えた。
(やばい。邪念を見透かされたかも)
椿は即座に返事をした。
「コルキストは誘わない。あくまで、極秘裏にロマノフを排除するのはガレリアと月帝でやりましょう」
リードは凶悪犯が人を疑うような顔で応えた。
「わかったよ。裏切るのは自由さ。だが、裏切ったら、責任は必ずこのレィダの刺青に懸けて必ずとらせるよ」
リードは話が済むと、すぐに回線を切った。
黙っていた伽具夜が、冷静に感想を加えた。
「残念だわ。リードが月帝の指導者だったら、月帝も未来が明るかったでしょうにね」
「俺は残念な人間なのか」と突込みたかったが、突込めない。なんせ前回は大負けして、首都を陥落させられた挙句に、斬首になった実績があるのだから。
伽具夜の感想は続いた。
「でも、前回よりはマシね。これで、対ロマノフの環境は整ったわ」
バルタニアにも通信を入れて、挨拶しておこうと思った。だが、バルタニアは月帝を相手にしていないのか、それとも、隣国コルキストと既に組んだのか、会談に応じてくれなかった。
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