第24話 軍拡万歳(三)
椿は閣議を終えると、通信室に移動した。
伽具夜が前回と同じく、隠しイヤホンを椿の耳に装着させて、音声を切るスイッチを持たせてきた。
伽具夜が誰と会談をするのかを聞いてきた。
「それで、お前は、どんな会談を、どの国とする気なのかしら。今度はコルキストと? それとも、ロマノフと組むつもり」
椿は正直に感想を漏らした。
「どちらとも、組みたくないよ。あいつら信用できないもん」
伽具夜が上から目線で教えてくれた。
「それは違うわよ。相手が信用できい人間だったわけではなく、お前が約束を維持するだけの価値がない人間だっただけの話よ。それに、前回のヘイトを持ち越すと、失敗するわよ。どうしても、テレジアやソノワと会談するのが嫌なら、まずは、新しく世界にやってきたガレリアの指導者と会ってみたら」
「前回、ガレリアの指導者が成績不振で消されたの?」
伽具夜が飲み込みの悪い人間にイラつくように当ってきた。
「成績不振で神様から飽きられた人間は前回、出なかったわ。前回の勝者が、ガレリアだったのよ。ガレリアの指導者は次元帰還装置を開発して元の世界に帰っていたはずよ。だから、誰かが、ガレリアの指導者として補充されているのよ。それが、この世界のルールなの」
「俺以外にも、外から強制的連れてこられた人間がいるの? もしかして、テレジアやソノワもそうなの」
伽具夜は呆れたように怒った。
「お前って、本当に馬鹿なのね! どうして、自分だけが特別な人間だと思ったのよ。他の国の指導者も、元は宇宙のどこかにいた奴らなのよ。違うのは、望んでやって来たか、望まないで来たかの違いがあるだけよ」
椿は腹が立った。伽具夜に対してではない。この世界の神様というやつに対してだ。
「嘘だろう。ここは仮想現実じゃないのか。そんな、死んだ人間も生き返らせ、地形すら書き換えられるような存在が神様を名乗って存在するなら、閣僚のように高度な知性を持ったいくらでも再生が可能な存在から、死と痛みを取り去って指導者を作ってゲームをやればいいじゃないか」
伽具夜が喧嘩腰に言い返した。
「前に言ったわよね。この世界は狂っている、って。この世界は繰り返すけど、一度毎に終わりがあって、終末があるのよ。死の恐怖を知り、終末を怖れる知的生命体だからこそ、本気でプレイすれば、ぎりぎりのところで裏切りもする。神様はそういう駆け引きを見たいのよ」
伽具夜が口を尖らせ、辛辣な言葉を続けた
「私の言葉が嘘だと思ったほうが気が楽なら、嘘だと思いなさい。ここはお前が言うように、お前しか人間が存在しない仮想現実だと思うなら、思ったらいい。でも、私は今、私の中の真実を喋ったわよ」
どこか、現実感がなかったが、伽具夜の言葉を疑えない椿自身がいた。
六人で殺し合いが行われるデス・ゲーム。酷く負ければ負けるほどに、条件は不利になり、やがては消されてしまう。俺はそんな理不尽な世界にいるのだろうか。
だとしても、俺はテレジアやソノワは殺せない。椿の首を刎ねた鳥兜ですら、殺せるかどうかわからない。
椿は迷ったが、ガレリアが新人なら警告してやろうと思った。ガレリアの西はポイズンの鳥兜で、東はロマノフのテレジアだ。前回の椿と同じ目に遭わないとも限らない。
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