第23話 軍拡万歳(二)
戴冠式はパスして、さっそく閣議室に直行した。
前回と同じ、悪の秘密組織の幹部連中みたいな閣僚と顔を合せになる。
今回は椿から尋ねた。
「自己紹介はいいから、軍務大臣から、戦力情報の開示をお願いします」
ビン底眼鏡の軍務大臣から戦力の報告の前に質問が出た。
「すいません。今、発言されたのは、新しい国王様で、いいんですよ、ね」
どうやら、前回の記憶を持ち越せるのは、国王と補佐役の皇后だけらしい。
椿が疑問を口にしようと伽具夜を見ると、質問を口にする前に伽具夜が答えた。
「お前の考えは、当っているわ。前回を知るのは、指導者と補佐役だけなのよ。他の者は知らなくいい情報だからね」
ある意味、自分の失策を覚えていてくれない国民も閣僚も、嬉しい存在だ。
けれども、そうなると、せっかく発展させた経済や、科学技術、アーティファクトとの関係も全てリセットになるのだろうか。
椿が考えていると、伽具夜が口を開いた。
「経済大臣、閣議室の机に、国家の収入支出報告書だけを表示させてくれてかしら」
結局、議事進行役は、また伽具夜に持っていかれた。
怪盗紳士のような経済大臣が手品師のように指をパチンと鳴らした。閣議室の大型ディスプレィに、経済の収入支出報告書が映し出された。
前回スタート時よりインフラ関連の数値が良く、企業も少しだけ育っていた。
(そうか、前回の開発は全くの無駄じゃないのか。初見にはアドバンテージがあるように、古参にも前回開発に力を入れた分野は少しだけ恩恵を受けて残るのか)
伽具夜が経済大臣に「報告よし。座りなさい」とだけ伝えた。座らせると、顎で軍務大臣に報告を促した。
軍務大臣が慌てて報告を再開する。
「我が軍の兵力は歩兵が二万、戦車二十輌、ロケット砲十輌、戦闘ヘリ十機、戦闘機二十機です」
歩兵一万と爆撃機とバトル・ドミネーターのヘッジホッグが姿を消していた。
(やはり、そう上手い話ばかりはでないんだな。経済に力を入れたから、経済は成長しているけど、現状維持しかしなかった事項、次回からは減らされるんだ。宗教は、まあまあ力を入れていたから変わらないだろう。科学技術は最後に全力で資金を注ぎ込んだから、それほど後退しないはず。だったらいいけど、すぐに首を刎ねられたからなあ)
椿が現状を理解したと思ったのか、伽具夜が次に「科学大臣、地図をここへ」と促した。
科学大臣が示した地図は、前回とほぼ同じ『づ』状の形をした大陸の地図だった。だが、づの点が二つでは三つになっていた。よく見れば、山や平野の位置にも微妙な変化があった。
(地形は毎回、大きくは変わらないが、微妙に変わるんだ)
ただ、地図で一番大きな変化は、都市と資源に現れていた。
今回、ベルポリスは最初からコルキストの領なのはいいとして、仙台もコルキストに占領された自治都市となっていた。
ロマノフはペテルブルグの他に、大阪を既に支配しており、大阪もロマノフの自治都市となっていた。
(残されたのは、首都の東京と直轄都市の堺と陸奥だけか。早いうちに、仙台と大阪を取り戻さないと、まずいな。資源は辛うじて石油が東京近郊に湧いただけか)
どうやら、有能ではない指導者は、負けが込めば込むほど、不利なペナルティーが課せられるらしい。つまり、能無しは早くゲームから退場させられる仕組みだ。
(まずいな。もう一回くらい負けても再チャレンジができると思ったけど、今回も負けたら、終わりかもしれない)
宗教大臣からの報告は特に変わったものがなく、また前回同様に予算の話になりそうになったので、話を打ち切った。
外務省大臣の報告では、どの国もまだ接触してきていないとの現状だった。
伽具夜が眉間に皺を寄せながら、不満を隠さず、皮肉を込めて聞いてきた。
「それで、国王陛下は、どうなさりたいんですかしら」
「まずは、服装の統一を」
一堂が「はっ」と言いたげな表情に変わった。
椿は構わず話し続ける。
「これから、一体感を出すために、閣議に出てくる際は俺が着ているのと同じような、赤の軍服を着用すること」
すぐに、元々軍服姿の科学大臣以外は「それは、ちょっと」という顔になり、お互いに顔を見合わせる。どうやら、各大臣の悪の組織的コスチュームには、ポリシーがあるらしい。
椿は構わず、キレ気味に言葉を続けた。
「月帝は軍事国家を目指す。しばらく、軍事と兵器に関する科学技術以外は省みない。軍国主義といえば、俺の中では色は赤なの。こうなったら、赤色万歳だよ!」
もう、どこぞの危険な国を真似するしかない。どうせ、死んでも国民は再生するし、戦争して相手の首都を手に入れておかないと、科学力も経済力も、軍事力も増えない。
相手の首を刎ねるのも、カイエロを手に入れるのも、次元帰還装置を開発するのも、他国を制圧するしかない。一に軍事力、二に軍事力だ。
伽具夜がすぐに真剣な表情で警告を発した。
「待って、早まらないでよね。前回はすぐに軍事国家に舵を切ればよかったけれど、今の月帝は、軍事国家には都合が悪いわ。最初はよいかもしれないけど、すぐに巻き返される状況が目に見えているわよ。ここは、軍備を増強するにしても、守り固めて、打って出ないほうがいいわ。状況を見て柔軟に対処しないと、すぐに潰されるわよ」
椿は伽具夜に逆らって宣言した。
「いや、もう、決めた。月帝は軍事国家の拡張路線で行く。予算も軍七、科学二で注ぎ込む、あとの一は残った省の人件費のみ。注ぎ込む科学も、軍事関連しか認めないの」
宗教大臣が慌てたように立ち上がり、畏れながらと、口にした。
「宗教関係にも予算を回してもらわないと、国民が不安に駆られて、暴動を起こしますよ」
「それは軍で鎮圧するから、いいよ」
経済大臣も予算配分に対して異議を唱えた。
「経済は国の要です。予算を回してもらわなければ、国庫がすぐに底を尽きます」
椿は声も高らかに宣言した。
「じゃあ、軍務大臣から予算を回してもらって。軍需企業にだけは、投資を許すから。あと、足りないなら、愛国国債と称して国債を発行して、どうにか予算を調達して。とにかく、軍が優先なの。今日からは先軍政治なの!」
椿の言葉を聞いて、軍務大臣が優越感を持って、経済大臣に視線を送った。
ここで、伽具夜が椿をジロリと見た。椿はまた辛辣な言葉を聞かされるのかと身構えた。
伽具夜は真剣な面持ちで発言した。
「国王が決めたのなら、閣僚の閣議への出席に対して、赤の軍服を義務づけるのもいいでしょう。軍事国家も、やむを得ないでしょう」
伽具夜の椿の示した方針への承認には、正直、肩透かしを食らった。
だが、伽具夜は一度そこで言葉を切って、椿に宣戦布告でもするかのように、言い放った。
「ただ、これだけは言っておくわ。私のドレスは黒よ。私は、黒しか着ないわよ」
椿は閣僚の前なので、眉間に皺を寄せるようにしていたが、内心かなり呆れた。
(そんな、服への拘りとかで、戦争でも仕掛けるように言わなくてもいいでしょうが。国家の運営や俺の命運に比べたら、どうでもいいじゃん、ドレスや下着の色なんて)
椿の心情なぞ知らない伽具夜は、魔女のような笑みを浮かべて発言した。
「なんせ、私のドレスは、お前の喪に服するためにあるのだからね」
椿は顔色一つ変えないように努力しながら、心の内でそっと感想を漏らした。
(やっぱり伽具夜の中では、俺が死ぬ展開が鉄板なわけね)
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