第18話 国家同士の約束の結末と三人の指導者(七)
椿はその夜、眠れなかった。
次の日は初めて、代謝速度減縮装置のスイッチをOFFにして起きたが、一日では戦況は変化していなかった。
伽具夜の部屋に行くと、伽具夜は優雅に紫色のお茶を飲んでいた。
椿は素直に、今回の状況に到った経緯を詫びた。
「伽具夜の言った通りになったね。ごめん」
伽具夜は大きな窓の外から町を眺めて、普通に会話した。
「別に、謝らなくていいわよ。覚悟はしていたから。それと毎日、起きるのは、止めたほうがいいわよ。早く年を老けるわよ」
「でも、戦争になったんだよ。寝てなんかいられないよ」
伽具夜は冷静に状況を見ているようだった。
「別に椿が起きていても、戦況は変わらないわ。あとは軍務大臣の仕事よ。でも、期待しないほうがいいわね。さあ、わかったら、部屋に帰って、ゆっくりお眠りなさい。状況に進展が見えたら、教えてあげるわ」
椿が出て行こうとすると背後で、伽具夜が何気なく「お前が作った街は嫌いじゃなかったわ」と評したので、振り返った。
伽具夜は何事もないように、お茶を飲んでいた。
眠ったのはいいが、一週間で起された。
緊急閣議で軍務大臣がビン底眼鏡を曇らせた、沈痛な面持ちで報告してきた。
「ベルポリスは落ちました。ヘッジホッグにより、コルキスト軍を攻撃した事態により宣戦布告をしたと見なされ、コルキスト軍は月帝領内に侵入。コルキスト軍は仙台の攻略に入りました。バトル・ドミネーターのヘッジホッグは四機も空軍も壊滅です。どうやら、コルキストは対ヘッジホッグ用のミサイル、ナッツ・クラッカーを用意して進軍してきたもようです」
バトル・ドミネーターを過信しすぎた。
考えれば、当たり前だ。科学技術を進めていけばバトル・ドミネーターが作れるんだったら対バトル・ドミネーター用の兵器も開発できて当然だ。
椿は心配な心を胸に、尋ねた。
「仙台は防衛できそうなの?」
軍務大臣が沈痛な表情で続けた。
「難しいでしょう。仙台攻略が開始されるまでに、陸奥で臨時徴兵により歩兵五千と、緊急生産でロケット砲十輌を用意するのが限界です。自治都市の仙台は、首長が平和主義者だったので、駐留する兵力は、歩兵五千しか常備していなかったようです。都市自体にも敵を攻撃する武装防壁がありますので、多少はコルキストに損害を与えられると思いますが、仙台が落ちるのは時間の問題です。コルキストは更に南の陸奥も狙ってくるでしょう」
ショックだった。せっかく育てたて都市が戦争に巻き込まれてゆく。
「そんな、せっかく都市間のインフラ物流も整備して地方都市も発展させたのに」
落ち込む椿に、外務大臣から予想されていた通りの報告が上がった、
「ロマノフより、正式に宣戦布告が通達されてきました」
軍務大臣がすぐに、大阪側の戦況を報告する。
「ペテルブルグと大阪付近で戦闘が間もなく始まるでしょう。こちらは残っているほぼ全ての兵力を回しているので、拮抗すると思います。とはいえ、とてもではないですが、対コルキスト戦まで回す兵力がありません、堺での臨時徴兵、兵器の緊急生産も戦闘への投入にギリギリ間に合わないと思われます。もし、なにかの弾みで、大阪、堺まで陥落したら、急遽、掻き集めた兵力と残存兵力を合流させても、大阪や堺の奪還は不可能と考えられます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます