第17話 国家同士の約束の結末と三人の指導者(五)
それから椿は三ヵ月ごとに起こされ、収入支出報告書を見せられた。
アーティファクトの発掘調査に多額の資金を費やしたものの、支出はバルタニアに対する。資源の輸出で埋め合わせられた。国内は順調に経済発展を遂げて行くのが報告書から見えてきた。椿の国は早く経済が発展して、国民の支持率は急回復。
街中を車で走ると、企業の大きな看板に大きなショッピング・モールや、商業ビルが目に入った。国内では大企業も育ち始めているらしかった。
商業ビルやお洒落なテナントが入ったビルが経済の好調を物語り、税収が増えてゆく前触れのように思えて嬉しかった。
自治都市になっている仙台と大阪の首長からは、経済を発展させてくれた行為による感謝の手紙も届いていた。
どうやら、経済効果は地方にも波及しているらしい。
街は豊かになり、娯楽施設が建ち始め、映画スタジオやスタジアムの建設も始まり、国民からの好感度も上がって行く。
眼が覚めるたびに、町に新たな発展があり、国を見るのが楽しみだった。経済が発展していく国を見て「俺っていい王様だなー」と自画自賛していた。
一年が経過したあたりで、アーティファクト『聖エルドの黄金像』が見つかった。
カイエロではなかったが、ネガティブ・アーティファクトでもなかった。
『聖エルドラの黄金像』の効果は経済成長を助けるものらしく、三年より少し早く、月額黒字一千億円を達成できた。
次元帰還装置を開発するための大学や研究所の建設計画も順調に計画され、全てがうまく行きそうに見えた。
そうして、椿が月帝やってきて三年半が過ぎた頃、椿は夜中に起こされた。
「夜中じゃないか。なんで、夜中に起こすの。俺は事実上、三ヵ月ずっと寝ているんだけどさ、ヤッパリ夜中は働きたくないよ」
起こしに来たバレンの顔には、ただならぬ気配が滲んでいた。
「なにを呑気な言葉を言っているんですか、国王様。緊急閣議です」
椿はバレンに連れられて、閣議室に到着した。すると、五人の閣僚がすでに揃っていた。
椿が椅子に座ると、すぐに外務大臣が深刻な表情で告げた。
「ロマノフにより、わが国の人工衛星が破壊されました」
「それって、宣戦布告されたって意味!」
外務大臣は深刻な表情で話を続けた。
「いいえ、まだ、宣戦布告はされておりません。ロマノフ大使の言い分では、ロマノフ側で人工衛星の打ち上げに失敗して、月帝側の人工衛星を誤って落としたと通達してきております。月帝国が人工衛星の再打ち上げに掛かる費用は全額ロマノフで持つとの話も来ております」
「人工衛星の打ち上げで相手の衛星を巻き込むなんて状況あるのかなー」
伽具夜が机を叩いて、椿を罵倒した。
「馬鹿! あるわけないでしょう。ロマノフは人工衛星によって、軍隊がペテルブルグに集結する事態を隠すために、事故を装って、ロケットをぶつけてきたのよ。ロケットの再打ち上げに掛かる費用をこちらが請求しても、高過ぎるといって時間を稼いで、時間を引き延ばしてくるだけよ」
ロマノフの裏切が始まったとしたら、テレジアの言っていた、侵攻しないとの約束は、反故にされた。
テレジアの言い分を信じて人工衛星の打ち上げミスだと思いたかったが、閣僚の顔は全員、ロマノフが攻めてくると言いたげだった。
「じゃあ、ヘッジホッグを移動して、大阪側に配備し直さないと」
外務大臣が険しい表情ですぐに口を挟んだ。
「それもまた、問題があります。ベルポリスがコルキストからの攻撃を受けております。どうやら、コルキストは武力でベルポリスを武力併合するつもりのようです。ベルポリスは我が国に救援を求めておりますが、いかかがいたしましょうか」
これも話が違う。コルキストは平和裏にベルポリスを復帰させると言っていた。コルキストのソノワも裏切った。
こうなってくると、伽具夜が最初に言っていた初見殺しの話が俄然、現実味を帯びてきた。
椿はすかさず、軍務大臣に聞いた。
「コルキストの兵力は、どれくらいなの」
軍務大臣が顔を曇らせ、絶望的な観測を告げた。
「人工衛星がないので正確にはわかりませんでした。ベルポリスの領空に偵察機を出しましたが、撃墜されました。最後の通信データから解析しますと、おそらく最低でも、ヘッジホッグを除けば、現在の月帝国と同程度の兵力を、こちらに向けているかと思います」
いくら楽天的な椿でもコルキストの兵力を聞くと、コルキストの狙いが一目瞭然だった。
「それって、ベルポリスを落すだけなく、南下して月帝領内まで攻めてくる可能性があるってこと! 最悪、北と西から挟撃されるって展開になるよ」
伽具夜が半分キレたような口調で言い直した。
「お前は、どこまで、おめでたいの! 最悪じゃなくて、当然の間違いでしょう。絶対に挟撃されるわよ」
こうなってくると、先の人工衛星の事故もロマノフの故意と確信していいだろう。もう、ロマノフとコルキストは繋がっているようにしか感じられなかった。
伽具夜は、だから言ったじゃないの、とばかりに怒り、椿を睨みつけるように尋ねて来た。
「それで、どうするのよ」
「よ、よし、兵力を二分しよう。ヘッジホッグと戦闘ヘリと戦闘機の半分をベルポリスの救援に出して、北からの攻撃を食い止めよう。残りの爆撃機、戦闘機、ロケット砲、戦車、歩兵を大阪方面の国境に回して西側を守ろう」
椿の作戦を聞いた軍務大臣が驚愕の表情で立ち上がり、すぐに口を挟んだ。
「え、部隊を二つに分けるのですか? それでは、二方面作戦になりますが」
「だって、それしかないでしょう。襲われているベルポリスも、これから襲われる大阪も、見捨てられないよ。両方護らないとダメだよ」
軍務大臣がまだ何か言おうとしたが、今度は伽具夜が不機嫌かつ早口に口を挟んだ。
「軍務大臣、座りなさい。国王自身が考えて決断した作戦よ。作戦の決定権も責任も国王様にあるんだから、命令の通りになさい」
軍務大臣は伽具夜に言われると何も言わず、ゆっくりと席に座った。
伽具夜は不機嫌な顔で、本土防衛作戦に関する注意をした。
「ベルポリスに兵を回してコルキスト軍を攻撃するとなると、こちらから宣戦布告したのと同じ意味を持つわよ。もっとも、コルキストの兵力から見て、こっちが何もしなくても、コルキストから宣戦布告してくるでしょうけどね。直轄都市の陸奥、堺で歩兵を臨時徴兵すると同時に、緊急生産でロケット砲を製造、首都でも臨時徴兵を行って、緊急生産で戦闘機を作らせるを追加提案していいかしら」
「そ、そう、それでいこう」
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