第14話 国家同士の約束の結末と三人の指導者(二)

 体を揺すられて目を覚ますと、少年執事の顔が目に入った。

「ごめん、なに、もう夕食。そういえば、寝ているだけなのに、お腹が空いたな」

「何を仰るのですか、国王様。国様が眠っている間に、半年が過ぎましたよ」


 嘘だとしか思えないが、寝る前に月帝暦で何月何日に眠ったから覚えていないので、本当かどうか、わからない。

 宮殿のバルコニーに出てから外を覗いて見た。宮殿のバルコニーから見える庭は秋の彩りに変わっていた。本当に半年が経ったようだった。


 椿は少しだけ気分がよくなった。

(時間が進むのって、王様の部屋で寝ていると、結構、早いな、体感的には二時間ぐらい寝たけど、半年も経過しているなら、体感的には早く日本に帰れるかも)


 少年執事が、椿の着ている服と全く同じ服を持ってきた。

「さあ、着替えてくだい、閣議室に外務大臣と経済大臣がお待ちです」

「なんで、閣僚が二人だけ。それに二人だけなら、執務室とか謁見の間とかで、会ってもいいでしょ」


 少年執事が首を竦めて発言した。

「執務室は皇后様が金融取引のために改造して使っております。謁見の間なんて半年間、誰も来なかったんですよ。清掃費削減のために、閉鎖しています。だって、寝たきりの王様ためにお金を使うなんて、もったいないですよ」


 ある意味、づけづけ物を言う少年執事に感心した。

「君、ゆうねえ。そういえば、まだ名前を聞いてなかったね、名前は」

「バレンスタイン・ソロアリストス・マルベリストギュンターニューです」


 椿は一発で名前を覚えられないのを一瞬で自覚した。

「ごめん、バレン君でいいかな」


 バレンは灰色の瞳の笑顔で辛辣な言葉で答えた。

「構いませんよ、王様。伽具夜様から、王様は猿の如き知恵の持ち主だと聞いておりますゆえ。フルネームどころか、バレンスタインまで覚えられるとは思っておりませんでした。王様の記憶力だと、濁点を一文字と計算して、四文字が限界だと思っておりましたので、バレンで結構です」


「俺は昔のコンピューター・ゲーム並みに頭が悪いのか、ちゃんと、ステシア・テレジアちゃんとコルカ・ソノワさんはフルネームで覚えたわ」と返したいところだが、じゃあフルネームで呼んでくれといわれれば、口が回りそうにない。また、女性だけしか覚えられないのですね、と返されると腹が立つので、発言は控えた。


 でも、伽具夜に馬鹿にされるのはいいとして、執事にまで馬鹿にされるのは癪なので、呼称問題に触れず、いちおうの抗議をした。

「それ、褒めてないよね? 馬鹿にしているよね? 俺、一応は王様だよ」


 バレンは笑顔で、屈託なく返した。

「はい、椿様は国王様です。ですが、私は、れっきとした皇后派ですので、敬意を払うところは払う。貶めるところは、礼節をもって貶めます」

(月帝の人間って、みんなこうなのか。なんか、皆、どこか一癖あるぞ。いいか。どうせ、権力者は孤独なのさ)

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