第11話 ローストチキンを作るには太った鶏が必要だ(五)
伽具夜は閣議室の机のディスプレィを世界地図に切り替え見せた。
「いい? よく見なさいよ。ロマノフは首都近郊にある都市は首都以外に二つ、内海を挟んでペテルブルグが一つあるだけなのよ。コルキストも、首都以外に都市は三つなのよ。月帝は仙台、陸奥、東京、堺、大阪の五つよ。ここに、ペテルブルグを落として、ベルポリスを併合すれば七つよ。ロマノフとコルキストと両国を合わせたより、都市数が多くなるわ。国力が二倍近く違えば、クレームを付けてきても、じゃあ、死になさいって言えるでしょう」
「こいつはモンスター女王で戦争狂だ」という言葉を、オブラートに包んで忠告してみた。
「でも、約束は守らないと。他三カ国からも信用できない国だと思われたら、世界の全部を敵に回してしまいますよ」
伽具夜は容赦なく椿を罵った。
「馬鹿じゃないの。これから、五人の首を取ろうというのよ。どのみち、お前は世界の敵となり、イブリーズ全住民から恨まれる運命なのよ。恨まれるための王様でしょう」
(なんか、これ、ゲームだとしても、進めるのが嫌になったよ。仮に、仮想現実の就職試験でも、会社に入社したら、発展途上国に派遣されて、贈賄で仕事を取ってこいと言われ、ばれたら、消されるようなブラックを越えたダークな企業のような気がしてきた)
伽具夜は、ちょっと苛々した感じで、棘のある聞き方をしてきた。
「じゃあ、お前はいったいどうしたいの」
「お家に帰りたい(泣き)」が正直な感想だが、正直に言うと、また言い争いになるので、一応は方針を考えた。
とりあえず、帰る方法が現段階でも三つある状況は理解した。
まず、帰還案その一。五人の首を取るのは却下だな。
戦争なんてしたくない。それに、バトル・ドミネーターなる強力な兵器があるのなら、ロマノフは容易に攻めてはこないだろう。
ベルポリスは独立しているなら、こっそり裏で支援してやれば、案外コルキストとの関係が悪化せず、ずっと壁になっていてくれるので、問題ないだろう。
帰還案その二、カイエロの収集。さすがに、伽具夜の話を聞く限り、六つのカイエロを集めるのは無理だろう。
それに、マイナー・アーティファクトの半分がネガティブ効果を持つというのが気になる。だが、何事も経験しないとわからないので、試しに一つくらいは発掘してみようとは思う。
となると、次元帰還装置の完成が一番無難だな。
「科学大臣さん、次元帰還装置の開発って、どれくらい掛かりそうなの」
科学省大臣は少し計算してから発言した。
「今の予算規模と科学力だと、三十五年ほど見ていただければ」
「そんなに掛かるの。じゃあ、俺、ここから出て行った時にはとっくに、中年ニートを通り越して、高齢者の仲間入り目前じゃん!」
科学大臣がすぐに、説明を付け加える。
「ですから、今のインフラ状況と予算規模での話です。専門の国立大学と国立研究所と関連技術を開発する企業があって、充分な予算が付けば、十年~十五年には短縮できると思います」
「それでも、充分、遅いって!」
軍服姿の科学大臣が笑顔で答えた。
「その点は、ご安心を。現段階の技術で、代謝速度減縮装置があります。この上で寝ていただければ、一カ月間、眠っても、体は一時間しか年をとりません」
伽具夜が「生きていられれば、でしょ」とにこやかな笑顔で不吉に呟いた。
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