第10話 ローストチキンを作るには太った鶏が必要だ(四)

 椿の視線を他所に伽具夜が「次、経済大臣」と閣議を続ける。

 経済大臣と呼ばれると、白いタキシードに片方だけ眼鏡を掛けた怪盗紳士風の四十代の男性が立ち上がった。


(どう見ても、産業を育成して金を生み出す人間には見えないよね。どちらかというと、疾風のマジシャンとか呼ばれていて、金を創るほうじゃなくて、盗むほうの人間に見えるんだけど。本当に産業育成して国庫に入れてくれるんだろうか。大臣が自分で国庫に金を入れる振りをして『頂きました』とか国庫にサインを残して、自宅に金を持って帰っていても、違和感がないよ)


 怪盗紳士風の経済大臣による説明が始まった。

 経済大臣の風貌は怪しげだが、話はまともだった。

「経済大臣のキュービック・クリフです。現在のところ、国内の輸送インフラ、電力に関しては、問題ありません。ただ、さらなる発展を続けるとなると、資源開発、国内金融機関整備、高速輸送整備網、エネルギー関連プラント、港湾への設備投資――」


 伽具夜が手を上げて、経済大臣の言葉を遮った。

「さっきも言いましたが、予算要求の話は、あとでいいわよ。まずは、現状報告のみ。つまり、目下のところ、国庫は赤字になっていなくて、経済は回っているのね」

 経済大臣は頭を下げて簡潔に「お仰せのとおりです」と発言して座った。


 伽具夜が「では、最後、外務大臣」と告げた。

 顔以外を全身金属パワードスーツで覆った、人のよさそうなお爺さんという、全く役どころがわからない人物が立ち上がった。

 とても、外務大臣には見えない。歳をとったが引退を逃したヒーローといった感じだ。というか、他の国の閣僚も、みんなこんな個性的な姿をしているのだろうか。


 パワードスーツのお爺ちゃんは、よくできた執事のような口調で話した。

「外務大臣のジャン・ベルクスです。現在の外交状況ですが、表面的にはなんの問題もありません。挨拶にお見えになられなかった二ヵ国の指導者より、定型分でお祝いのメッセージが届いています。まあ、お手並み拝見といったところでしょうか」

「わかったわ。では、各大臣の言いたいことは」


 ここで、悪の秘密結社が唱えるキャッチフレーズのように、全員が声を揃えて「予算の増額を」と息もピッタリに発言した。

 伽具夜は気だるげに「財源は?」と聞くと、これまた息ピッタリ「増税で」で各大臣は答えた。

(なんだ、こいつら? 最後のフレーズを発言するタイミングだけは、どっかに集まって練習したみたいに、息ピッタリだよ)


 伽具夜が冷たい視線で椿をみて、皮肉っぽく見解を聞いてきた。

「それで、平和万歳の国王様は、国の現状を聞いて、どうしたいわけ」

 さあ、国を動かせと言われても、どうしていいのか、すぐにはわからない。とはいえ、ここで方針を示せないようでは、愚か者ぶりを見せるので、時間稼ぎと要点を纏めるために伽具夜に話を振った。


「待って、一応、伽具夜の意見も聞かせてくれるかな」

「月帝は今、五都市を支配していて、勢いがあるわ。まず住民の自治都市になっている、仙台と大阪の首長の首を飛ばして、直轄都市にしなさい。五都市による中央政権体制を構築するのよ。そのまま、増税を決行すると共に、増税した予算で、各都市に兵器の増産と、壁にするために歩兵を緊急徴兵しなさい」

(やっぱり、伽具夜が望むのは軍拡と戦争路線なんだ。でも、侵略戦争ってどうも、する気になれないな)


「あとは、戦車とヘッジホッグで西のペテルブルグを支配下に置くと共に、北の独立都市ベルポリスを落すのよ。これで、七都市が確保できるわ。ここから、科学力を軍事力に傾倒させてコルキストとロマノフを引き離して駆逐するのがベストかしら」


「ちょっと、待ってよ。ロマノフとコルキストには、さっき、攻めないって約束しちゃったよ。それに、ロマノフは臣従の態度まで取ってくれたじゃないか。それじゃあ、約束違反だよ」


 伽具夜は少々喧嘩腰に椿に意見した。

「お前は正直者なんでしょう。だったら、一個小隊ヘッジホッグが入ったから、状況が変わったといえばいいでしょ。言いたくなけりゃ、無視すればいいのよ。約束なんて、軍事力でどうとでも変わるのが世界政治よ。ロマノフの臣従の態度っていっても、会談での指導者同士の挨拶だけでしょう。ロマノフの国民が見ていたら、テレジアはあんな態度は取らないわよ」

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