第5話 最初は処女の如く(五)
コルキストの指導者は白と黒のストライプ・ヘアーの短い髪に、切れ目の顔立ちをした人物だった。相手はグレーのスーツを着ており、中性的な感じの二十歳代後半の人物で、一見すると男装の麗人といった印象を受けた。
最初に椿は性別をぱっと見て、どちらなのかが、わからなかった。
コルキストの指導者が恭しく礼を取った
「コルキストの執政官。コルカ・ソノワといいます。まずは、国王就任おめでとうございます。今日は一つお願いしたい件があり、お話に上がりました」
椿は声で、やっと女性だと判別がついた。
ソノワが話を進めた。
「コルキストは西側でロマノフと国境を接しており、いずれ決着をつけねばいけません。ただそうなると、南端でベルポリスを挟んでいるとはいえ、貴国との関係悪化は避けたい」
すかさず伽具夜から説明が入った。
「ベルポリスは元コルキストの都市だったけど、現在はコルキストより独立した状態になっているようね。位置的には月帝の北にあり、コルキストの南、ちょうどコルキストからの壁になっているわ」
ソノワは遣り手ビジネスマンのように話を続けた。
「貴国は西にロマノフ領ペテルブルグがあり、ロマノフの脅威に曝されているともいえます。ここは一つ、手を取って、対ロマノフ共同戦線を張っていただきたいのです」
さっきロマノフに提案されたのと似たような提案をしてきたよ。正直、どうも人の血が流れる、戦争は、やっぱり避けたいんだけどな。
椿はソノワの提案を丁寧に拒否した。
「お話はわかりましたが、ペテルブルグ問題は戦争によらず、解決したいと考えています。ロマノフとも、対話による解決を試みるつもりです。現段階では、対ロマノフ戦は考えていないのです。もちろん、コルキストとの戦争も考えておりませんし、ベルポリスを併合しようとも思いません」
ソノワは硬い表情を崩して、柔らかな物腰で最後の挨拶をした。
「椿国王が平和的人物で、安心しました。ベルポリスとの問題に月帝国が介入なされないのであれば、この借りは、いつかお返しします。ベルポリスが平和的にコルキストに復帰するように、私も努力しましょう。ベルポリスがコルキストに復帰して国境を接するようになっても、友好が末永く続く状況をお互いに維持しましょう」
椿は二人との通信が終わり、ホッとした。
どちらも、敵対的な態度を椿に対して採らなかった。
それに、ロマノフとコルキストの仲が険悪なら、両国で争っていて、月帝には手出ししてこないだろうとも感じた。
(まずは、ひと安心といったところか)
椿の安心をよそに、伽具夜が冷たい目で評価を下した。
「最悪の外交だったわ。これで、お前は間違いなく、初見殺しに遭うわね」
不吉な言葉を聞いた。
「な、なんだよ。その、初見殺しって」
伽具夜は苦い表情をしたまま、教えてくれた。
「まだ何もわからず、世界にやってきた指導者を二ヶ国で襲って、何もかも奪っていく作戦よ」
「え、でも、ロマノフもコルキストも、互いに国境を接して敵対しているって――」
椿が全てを言い終わる前に、伽具夜の怒声が飛んだ。
「それは、お前がコルキストとの通信を切る前までの話よ。今頃、ロマノフのテレジアとコルキストのソノワが初見殺しの話を始めているわよ。一度、死ぬ目に遭えば、わかるよ。さあ、自国の閣僚たちと話を始めましょうか」
「でも、まだ、ポイズン、ガレリア、バルタニアの指導者から挨拶がないよ」
伽具夜は、もうどうしもない馬鹿を見るような目で教えた。
「それはねえ、椿。お前を相手にするまでもないと、三カ国の指導者が見た証拠なのよ。もっとも、椿が今の対ロマノフ、対コルキスト戦略が芝居で、両方を同時に潰そうって、素敵な考えの持ち主なら、残り三カ国に話を持ち掛けてみなさい」
椿はとてもじゃないが「今の話は嘘だよーん。他三カ国と組んで、テレジアとソノワの首をハンティング・トロフィーがわりに王宮に飾って眺めてやるぜ。ひゃははは」と言える神経の持ち主ではなかった。
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