ウィペットのセレナ

ショウ

すぴーどのかなた

ジャパリパークのさばくちほーにある地下遺跡。そこには古の財産を探し出すため、日本を代表するUMAであるツチノコが住み着いている。

普段は遺跡探索をしながら暮らしてるツチノコだが、最近そんな生活にとある変化が訪れていた。


「待てー!ツチノコぉ!」


「待たないぞ!自分の力で追い付け!」


遺跡の狭い通路を全速力で駆け抜ける二つの影。ひとつはツチノコ。もうひとつは短距離最速のサイトハウンド。ウィペットのセレナだ。


「今日こそはあなたに勝つんだ!負けないよ!」


「昨日もそう言ってたが、どうだか!さて、ゴールはもうすぐそこだぜ」


「ぬおお!また負けちゃうー!」


セレナはいっそう加速して前を往くツチノコの背を追うが、まだまだツチノコとの距離は短くならない。そしてそうこうしてる間にゴール地点である迷宮出口に辿り着いてしまった二人。


「うーまた負けたぁ…」


肩で息をしながらセレナが悔しそうに唸る。


「オレの勝ち。たかがかけっこ。そう思ってないか?それだったら次もオレが勝つぞ」


「うるさいよ!今の流行りに乗らなくていい!…もう、ツチノコはどうしてそんなに速いのさ?」


「ま、一言で言うと、UMAだからかな。人々から色んな伝承が追加され、その影響がオレのこの速さを作ってるんだと思う」


「むー、そんなのズルいよ!卑怯だよ!」


「お前もUMAになればいいんじゃないか」


「そんな簡単になれるもんじゃないよ!それにわたしは実質ヒトに作られたけものなんだから、どう足掻いてもUMAにはなれない」


「…お前はそれでもいいのか?」


少し落ち込んだように俯いてしまったセレナを見てツチノコは思わず声を掛ける。


「全然構わない。ヒトと一緒に居るとあったかい気持ちになれて好きなんだよ。おもちゃで一緒に遊んだり、一緒の布団に潜り込んだり、くっ付いて寝たり、ね。その何もかもが、ヒトとの全てがわたしの幸せなんだよ」


もちろん、あなたとのかけっこもね、と付け加えセレナはツチノコにウィンクを送る。


「そういうものなのか…。ところでお前、どうして最近オレのとこに来るんだよ。追いかけっこしたいならもっと走るのが得意なけものとやればいいだろ?」


「うーんとね、なんかわたしって昔から小動物をよく追いかけてたんだよ。だからツチノコみたいなヘビの方が私の性にあってる。みたいな?」


「ふーん、そんなもんか。でもやっぱ、オレとばっかやってても面白くないだろ?たまには他の奴とも走ってみろよ」


「確かにそれもそうかもね。他の子と走るのも新鮮でいいかも」


と、2人で他愛もない話をしていると遺跡の奥から謎の怪音が出口にまで響き渡った。


「わひぃっ!!?な、なになに!?なにごと!?」


セレナが飛びつくような勢いでツチノコの元へひとっ飛びし、影に隠れるように身を潜めた。


「最近な、なんか変な物音が遺跡の奥辺りで鳴るんだよ」


「えーやだ何それ怖いんだけど」


「今から調査に行こうと思うんだが、お前も来るか?」


「え、無理無理!怖いもん!!」


セレナは全力で首を振って拒否する。


「そうか。じゃあ今日はここで解散だな。どこかで怪音が鳴り響き、いつどこでどんな輩が現れるのか不明な遺跡を一人で彷徨って帰るのか大変だな」


「そんな言い方しないで!!怖すぎるよ!!

そんな状況で一人になるならツチノコに着いて行った方がマシかな…」


その言葉を聞くとツチノコは安心したように胸をなで下ろした。


「そうか。じゃあオレと一緒に調査に行くか」


「いや調査はいいからわたしの住んでるとこまで案内して」


「ぇ…」


セレナのキッパリとした口調に僅かに動揺した気配を見せたツチノコ。それに目敏く気づいたセレナは「どうしたの?」と声を掛ける。


「い、いや、ちょっと、な」


「…なに?もしかして一人だとツチノコも怖いの?」


意地悪そうに目を細めながらセレナが聞く。


「んなっ!?ちがっ!そ、そうじゃねー!!このオレがこんなもんで、そ、そんなビビるわけ…」


「うんうん。ビビってるんだね。その焦りようは肯定してるようなもんだよ」


セレナにそう言われるとツチノコは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。


「仕方ないねえ。わたしもついて行ってあげるよ」


「お、お前も怖がってたくせに!」








「あーやっぱついて行くのやめておけばよかった…」


暗い遺跡の通路をツチノコとセレナが二人並んで進む。


「なんなのこの怖さ…。ジャパリパークにこんなとこあるなんて聞いてないよ…」


「さっき普通に走ってただろ…」


呆れたように呟くツチノコ。


「いやだってあれは闘争心の方が勝ってただけだし…」


とブツブツと言い訳を垂れ流してたセレナだがツチノコはそれを鮮やかにスルーする。


そうして二人で進んでいると、突如甲高く「ピー!!!」という音が通路に響き渡った。


「ひぎゃあああ!?!なになに怖い!!!ツチノコ!怖い!!」


「…ふふっ」


そんなセレナのリアクションに思わず笑ってしまうツチノコ。


「ね、ねえツチノコ!今のなんの音!?」


「さあねえ…オレもわからん。この遺跡があまり見慣れない見知らぬ存在であるお前に「イナクナリナサイ」と警告してる音かもな…」


そのツチノコの言葉を聞くとセレナは顔を真っ青にしてツチノコの両肩を抱き、身を低くし、周囲へと油断なく警戒を始める。


その状態でしばらく歩くと、また「ピー!!」という音が響く。


「やだあ!!ツチノコ!!」


と、怯え切った目でセレナがツチノコの顔を覗き込む。するとそこには口をとがらせて口笛で「ピー!」という音を高鳴らせるツチノコの姿が。


「…ってお前かーい!」


セレナはツチノコの頭を思いっきりひっぱたく。


「いてて、いやーすまん。どういう反応するかちょっと気になったもんでつい…な」


「ついじゃないよ!あーもうビックリして損したよホントに。なにが遺跡がわたしを拒む音だよ!」


「悪かったって言ってるだろ?ほら、そうこうしてる間に目的地だぞ」


ツチノコが指した先は大きな扉だった。


「この先に、あの怪音の主が居るの?」


「そのようだぜ」


「中の様子は?」


「赤い中型セルリアンがうじゃうじゃいやがる。さしずめ、セルリアンハウスと言ったところか」


「いけそうなの?」


「へっ、さっきも言っただろ?オレはヒトから様々な説を受けたUMAだって。それは戦闘面に於いても同じさ。ぱぱっと殲滅してやるよ」


「そ、それならいいんだけど、無理はしないでよ?」


「お、じゃあお前も来るか?」


「ヤダ。怖いもん」


「相変わらずキッパリと断るやつだな…。まあいい。ここで待ってろ」


「そうする。頑張って」


「おう。任せとけ」





「なんて言ったものの、こいつらめっちゃ厄介で真面目にピンチなんだが…」


ツチノコは肩で息をしながら、前方より大量に迫ってくるセルリアン軍を見つめる。


「無限増殖なんて聞いてないぞホントによ…」


右方から突っ込んできたセルリアンを躱し、お返しにと蹴りをぶち込む。それだけでパッカーンと倒せる程度のセルリアンだが、とにかく数が多い。一体のセルリアンを倒してる隙に他のセルリアンから3〜4対ほどのセルリアンが生み出される。その生み出されたセルリアンの相手をしているうちにまた別のセルリアンから新たにセルリアンが生み出される。完全な無限ループに持ち込まれ、ツチノコの体力が尽きるまでがリミットの絶体絶命な状況だった。


「くそっ、リドルアイズビーム!」


目から怪光線を放ち出現したてのセルリアンを一網打尽にしても、また新たなセルリアンが出現する。


「くそっ、ここまでか…」


次から次へと襲いかかってくるセルリアンをいなしつつ数を減らしても続々と増えてくる。そんな状況でツチノコが諦めかけていた。そのとき


「スピードスターの超速演舞!」


ツチノコの視界の端から薄茶色の閃光が視界中を駆け巡り、ツチノコを取り囲むセルリアンを一瞬で消滅させた。


「え、せ、セレナ!お前、見とけって言っただろ!」


一通りセルリアンを倒したセレナはツチノコの横に着地し、ツチノコに振り向きこう言い放った。


「こんな状況で友達を眺めてるだけでいられるほど、わたしは冷たいけものじゃないからね…!」


キリッと目を光らせセルリアンの大軍を睨みつけるセレナ。


「ふ、ふん。無理はしない方がいいんじゃないか?足がガクガクに震えているぞ」


「う、うるさい!こ、これは武者震いだもん!!それにツチノコに無理をするな、なんて言われたくないよ。こんな状況になってまでまだ暴れるつもりなんて…」


「ふん、UMAを舐めるなよ。まだまだオレは戦える」


セレナとツチノコは互いに背を預けて赤いセルリアンの群れを睨みつける。


「じゃあわたしが群れの殲滅をするから、ツチノコは増殖しようとするやつを叩いて!」


「おう、大丈夫か?怖くないか?」


「怖いよ!怖いけど、やってやるんだから!これこそがスピードの彼方だ!」


セレナは再び目にも留まらぬイダテンのやいばと化し、セルリアンの群れを駆け抜ける。

そしてセルリアンがセレナに夢中になっている隙に増殖を試みるセルリアンをツチノコがバッタバッタと蹴っ飛ばす。

ツチノコが一人で戦ってたときとは真逆の展開でドンドンセルリアンを追い詰めていく。


「いよいよ、残り一匹だな…」


「そうだね、長い戦いもついに終わりだよ!」


そして二人でジリジリとセルリアンに寄っていくと、セルリアンは本能的に危機を感じたのか、急いで逃げ出した。が、相手が悪かった。


「ふっふっふ…この最速の二人から逃げられるとでも思ってた?」


「逃がすわけないだろ」


セレナとツチノコにあっさり捕まったセルリアンはセレナのソバットとツチノコの回し蹴りを同時に受け、綺麗に消え去った。


「ふう、ようやく終わったね…」


「楽勝だったな」


「どうだか。わたしが加勢しなきゃだいぶピンチだったでしょ?」


「あれは本気出してなかっただけだ。それよりお前、ただの怖がりかと思っていたがあんな技使えたんだな」


「スピードスターの超速演舞のこと?あれは万が一の時のためにひそかに練習してたわたしのけもスキルだよ」


「やるじゃねえか。今度はお前と試合で手合わせしてみたいもんだぜ」


「冗談。UMAには敵わないよ」


「ふふ、どうだか。それよりさっきは助かった。まあその、なんだ、ありがとな。お礼と言っちゃなんだが、また一緒に走ろうぜ」


それを聞くとセレナは目を燦爛と輝かせ、


「よーしじゃあわたしはスピードスターの超速演舞使うね!」


「ちょ、それは反則だろ!」


「あーここい居たんですか。探しましたよツチノコ」


「やっほいセンパイ!」


セレナと言い争いをしているツチノコの横から、あるけものが声をかけてきた。


「ん?あースナネコか。それにアオジタもか。なんの用だ?」


砂漠の天使の異名を持つネコのスナネコと、砂漠のオアシスの異名を持つトカゲ、アオジタちゃんことニシアオジタトカゲだ。


「お?その子は誰です?」


「センパイのお友達?」


「ああ、さっき協力してセルリアンを倒したオレの仲間、セレナだ」


「こんにちは!わたしはウィペットのセレナ!二人ともよろしくね!」


「ボクはスナネコです。よろしくお願いします」


「アオジタちゃんはニシアオジタトカゲ!アオジタちゃんって呼んでね」


「スナネコにアオジタちゃん!よろしく!ねえ、お二人さん、わたしとかけっこしない!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウィペットのセレナ ショウ @Sho_Kemo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ