君は君のままで

 私も恋をしたことがあった

 今では灰色の思い出になっているけれど、あの時は私の周りはパステルカラーで彩られて頭の中はお花畑で、笑っちゃうくらい好きな人のことばっかり考えて、好きで好きで、私のすべてが恋で彩られていた。


 灰色になった後でもあの頃の色が忘れらない。

 手を繋いだ時の温もり。

 初めて手を繋いだ時の胸の鼓動も。

 下手くそなキスをして

 何度も抱きしめた

 暖かかった

 夏の暑いも汗ばんでいても君の温もりは

 とても熱くて、心地よかった

 笑った顔を思い出す度に心が休らいだ

 目の前で見るとドキドキして落ち着かなかった

 ありきたりな幸せが私にとっての幸せだった。

 

 別れを切り出して別れを分かち合った。

 別れを切り出されたのは分かっていた。

 会えないことは分かっていた。

 それでも手放したくなかった。

 それなのに手放した。


 あの瞬間に私は灰色になったのだろうか

 いや、それだけじゃなくて

 灰色になるために、私自身が灰色になろうとして、灰色になりたいと願ってしまった。

 嫌になったんだ。


 全部嫌になった。


 嫌いだった。


 嫌いになった。


 私自身が嫌になったんだ。


 全て、幻にしたかった。死にたかった。死んでしまいたかった。

 あなたがいたら私は死ねないと思った。

 そんな事を考えている自分が嫌だった。

 私は私を殺した。


 コンビニ弁当の彩りも、朝日が眩しいのも、草木の色艶が爽やかなのも、海や空の青さが雄大だとしても。


 私がここにいるのが嫌だった。


 私が生きているのが嫌だった。


 同じことを繰り返して、何度も同じ失敗をして。


 好きになれないのなら、好きになってくれないのなら、好きになって貰う努力が出来ない。私を見て欲しいのに、私はあなたを見れない。見ているだけでいいと思っているのに、それじゃ満足できない。


 自分は都合のいい人でいいと思っていたけれど、それじゃやっぱり嫌で、でもそれは私が望んだことで、私がこのままでいいと思っていたのに。

 踏み込んできたあなたを断れなくて、混ざっていった。


 そして私は灰色になった。


 私は望んで灰色になった。


 私が灰色なのは。私の色が無くなったせい? 私があなたを受け入れたから?


 違う。


 私はあなたを求めていたようで、求めていない。


 どこかで分かっていた。


 あなたは私を求めていたようで求めてはいない。


 ただの都合のいい人で。都合のいい時に、都合の良い言葉を言ってくれる人。


 それだけ。


 それに気づいたから、私は灰色になったのかもしれない。


 それがあなただけだったら私は灰色じゃなかったかもしれない。


 私の周りにいる人達。


 みんな私は都合のいい人。


 ただ周りの色に合わせて頷いて。


 意見なんていらないから。


 そうやって色が混ざっていって、灰色になった。


 私がパステルカラーに溢れていて、お花畑な考えで溢れていた時。


 私は誰かを灰色にしていたのかもしれない。


 その報いを受けているのかもしれない。


 私は誰かの罰を受けているのかもしれない。


 私は私で罰しているようで、自分を罰しているようでそれは甘えで


 まだ誰かに罰を受けていないだけ。


 今となってはそうだったことしか思い出せない。


 輪郭があるただの灰色の影が私を付きまとう。


 冷たい実感のない感触が思い出を上塗りしている


 私は灰色のまま。


 君は君のままで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る