多分私は狂っている

 自分で判断できなくなっているのだろう。

 灰色の世界に居続けた結果、他の色のことが分からなくなった。

 私が灰色であり続ける限り、どんな色も灰色にしてしまう。


 例えば病院の受付の人も灰色、つけているマスクも灰色。髪も灰色でグレイヘアーと言えば聞こえがいいのかもしれないけれど、私が見ているから灰色なだけで本当はアッシュがかかったブロンドかもしれない。

 受付表も灰色で書いている文字も灰色。

 私にはすべてが灰色の中にある濃淡で識別されている。

 濃い灰色、薄い灰色。

 きっと見る人が見れば魅力的なブロンドヘアーも、ブルーの瞳も、色白な肌も、こんがり日焼けした肌だって、綺麗な黒髪も私には全てが灰色。

 

 私は狂っていると思う。

 こんな灰色ばかり見ていて、死にたいと感じることもあったけれど、それでも生きている。

 私が吐く息は灰色で、食べるものも灰色で、体を洗うお湯も灰色なのに、それでも死ぬことが出来ない。

 灰色の血を流して、苦しんでのたうち回りたい。

 口から灰色の泡を吐いて全身から力が抜けて意識が飛んでしまえばどれだけ楽だろうか。

 

 何回も考えた。

 いや、毎日考えていると言った方が正解だろう。

 死ぬために生きている。


 人はいずれ死ぬ。

 その終わりをただ待つのか、自ら求めるのか。

 それまでにしたいことは無いのか?

 

 私は狂っている。

 灰色の世界で声を上げて大声で叫びたいのに。

 灰色の声は灰色の空に響かない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る