第3話 夢なんだけど、夢じゃない

(ユイト·····)


(ねぇ、ユイト·····)


(ねぇ、早く起きてユイト·····)


無意識の中、体の周りから静かな声が囁いてくる。


やがてその音は耳に侵入して、鼓膜を振動させ、聴神経を伝い、脳に刺激を与え……


「ハッ」


俺は突然目を覚まして、体が自然に起き上がった。まだ、寝足りないのに……


「やっと起きてくれた!」


目の前には、こちらを覗き込むデメテルがいる。何故だか分からないが、服が先程のボロい物から、赤色の綺麗なドレスに代わっている。


「えっーと、デメテル。何処かにでも行くのか?悪いけど、まだ起こさないでくれ。俺は今、猛烈に疲れているんだ。頼む、もう少し寝かせてくれ」


「寝かせてくれって、ユイトは今寝ているじゃない」


「はっ?」


「はっ?じゃないよ。ここは夢の中なんだよ」


俺が寝ぼけているのか、それともデメテルが頭おかしくなったのか……


どちらにしようと、俺は今のデメテルの言葉の意味が理解できなかった。


明らかに夢の中とは違う感覚だし、今いる場所はデメテルの部屋。古臭い木の匂いもしっかりと感じられる。どう考えても、ここは現実世界なはず。


いや、待てよ。


もしかしたら、そもそもこれ自体が夢の中で、夢の中で起こされてもそれは夢の中で、夢の中は寝ている状態であって……


考えれば考えるほど、俺の頭はこんがらがる。


「さぁ、早く夢幻世界に行きましょう。みんなが待ってるわ」


「え、ちょっと……」


俺の意見を一切聞かないで、デメテルは強引に小さな部屋の扉を開けた。


すると、その瞬間、


パッーーーーーーーン


激しい轟音と共に、強眩い光が容赦なく眼光を突き刺してきた。


暴風が体を宙に軽々と浮かせて、部屋を支えている木造の丸太はバキッと重い音を立て始めた。


(一体、どうなっているんだよこれ!?)


「さぁ、行くわよ」


「は?」


その瞬間、デメテルの部屋は激しい光に包まれて、粉々に砕け散っていった。


2人の姿は跡形もなく消し去っていった。




「ユイト、着いたよ!」


「着いたって、何処に……」


「森の中だよ」


「森の中?」


仰向けになったボロボロの体を起こして、首を回し、辺りを見回す。


すると、ユイトは目を白黒させた。


「何だ、ここは!?」


ユイトは思わず声を出した。


まぁ、それも無理はない。


何故なら、今、ユイトとデメテルは見ず知らずの森のど真ん中にいるのだから。


野生動物が草を食する音、野鳥のさえずり、川から水が流れる音·····


まるで、ジャングルのような所。


「デメテル、これは一体どうなっているんだ?」


「これは、私たちの脳が夢幻世界に足を踏み入れているの。

私たちは普段暮らす世界(現実世界)と夢の中で過ごす世界(夢幻世界)を交互に過ごしているんだよ」


「じゃあ、さっきの部屋が壊れた時の世界は?」


「あれは、現実世界から夢幻世界へ移行する際に使用する手段だから問題ないよ。所詮、夢の中なんだから、現実世界には支障はない。


まぁ実際、一部例外を含むけどね」


「そうか。まぁ、家が本当に壊れてなくてよかったな」


「あ、そうね。気を使ってくれて有難う」


デメテルがニコッと微笑んだ。青色の髪がサラサラと風になびいて、可愛らしいドレスがよく似合っている。


現実世界の茶色のボロい服を来たデメテルと比べると、まるで人が違うみたいだ。


「ところで、この夢幻世界では何をすればいいんだ?」


「特に変わったことは無いよ。ただ、生活をすればいいの。現実世界と同じようにね。


あと、夢幻世界で育てた物や収穫した物は全て現実世界に持ち帰る事が出来るの。


これは、現実世界にないものでも、この夢幻世界だったら手に入ることがあるかもしれないって事」


「へー、不思議だな。夢の中の物を現実世界に持ち帰ることが出来るなんて、とても興味深い。


あ、あと1つ聞きたい事があるんだけど、聞いてもいい?」


「何?」


「この夢幻世界ってのは、この森の事を指すのか?普通、夢って色々な場所に行けるんだけど……」


「勿論、夢幻世界は様々な場所を持っているわ。

今いる森林に、海底や火山、雲の上やオシャレな街などがあるの」


「やっぱりそうだよな。で、それらは、どうやって決めるんだ?」


「それは、」


デメテルが言いかけたその時、遠くの方から、こちらへと近づいてくる怪しげな音が聞こえてきた。

次第に周りの枝が揺らされ、地面が響てくる。


そして、遂に目の前にそれは姿を現した。


ヒヒーーーーーン


純白の馬に乗った美しい紫色の長髪の少女と、その周りで護衛をしている馬に乗った4人の男性が一瞬で目の前を通り過ぎていった。まるで、風のようだ。


その異様な景色に、俺は口をあんぐりさせた。


「今の方は、この国の王の娘であるアリス姫よ」


「アリス姫?」


「アリス姫は凄いの。勉強熱心で、国家の中でもずば抜けてドリームスキルのLvが異常に高いの。次期国王は彼女に決まりって大勢の国民が言ってるわ」


「あの少女が次期国王か。見るからに俺たちと同い年くらいだよな。

っていうか、ドリームスキルってなんだ?」


「夢幻世界で使える特殊能力の事だよ。ドリームスキルは、特殊能力として【創造力】【攻撃力】【防御力】【治癒力】【耐性力】という5つの能力が使えるの。練習を重ね、Lvをもっと上げて高度な能力を身に着けることもできるの」


【創造力】【攻撃力】【防御力】って、まさかあのカードの事か???


確か、全てLvMAX状態だったよな。だとしたら……


「ねえ、1回ユイトの見せてもらってもいい?

異世界人の能力は気になるので……」


「あ、別にいいよ」


「有難う。じゃあ、貴方の能力を読み込むわね」


そう言うと、デメテルは俺の掌を優しく擦り始めた。


すると、俺とデメテルの目の前に能力についての説明文が浮かび上がってきた。


【創造力】

ありとあらゆる物を生み出す事ができる能力。

LvMAX状態・・・これ以上強化はできません。


【攻撃力】

ありとあらゆる攻撃術を使う事ができる能力。

LvMAX状態・・・これ以上強化はできません。


【防御力】

ありとあらゆる防御術を使う事が出来る能力。

LvMAX状態・・・これ以上強化はできません。


「はーーーーっ???」


デメテルはあまりに驚きすぎて、声が裏返ってしまった。それくらい衝撃的なものを彼女は見てしまったのだ。


それは、今までこの世界の誰一人も達成することのなかったLvMAX状態の能力を取得していたからだ。


それも1個だけじゃなくて3個も取得してしまっている。


デメテルはただひたすら、その場で固まっていた。




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夢幻物語 ー異世界の敵は、好きだった幼馴染でした 紫空ソラ @SIKUUSORA

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