第2話 3枚のボロ紙とチート能力

(ここは何処だ?)


気がついた時、俺は見ず知らずの細い道の上に横たわっていた。


冷たい風が頬を撫で、長い髪を揺らす。顔には土がベッタリと付着している。


(何だこれ、汚いな)


体に付着した土を払う為、立ち上がろうとした時、俺は誤って足を滑らせてしまった。


(ヤバい・・・)


ビシャーーーーーーーン


俺の体は道から落ちて、川へと放り投げられた。


(あれ、暖かい?)


不思議な事に、俺が落ちたこの川は思った以上に浅くて暖かかった。


体に付着していた泥や土は一瞬にして消え去り、暖かい液体が身をまとった。


(やけに暖かいな。それにこの川、なんだか血のような色してる)


ジャブジャブジャブ


体を再び起こして、赤い川から抜け出す。ズボンに染み込んだ水が足取りを重くして、非常に歩きにくい。


坂を上る際、ふと上を見上げてみると、紫色の空が無数の雲を浮かばせながら広がっていた。


その中には太陽と同じような光を放っている恒星が見えるが、明らかに形がおかしい。


ギザギザの形をしたダイヤモンドとでも言おうか。


今まさに沈みかけているその歪な星をただただ呆然と見つめる。


すると突然、俺の脳内に煉獄の事が思い出された。俺が何故、ここにいるのかも全て理解した。


(そうか、俺はあの爺によって来世を与えられたんだ。という事は、ここは地球とは違う、異世界?)




重い足を引き摺りながら急な坂を上り、転げ落ちた道に戻った時、俺の心臓は大きく縮み上がった。


結斗の視界に、異様な風景が映ってしまったからだ。


青色の草むら、血の色をした川、全長約10メートル程の巨大なカラスの群れ、真っ黒の月、遠くに見える巨大なお城・・・


まるで童話の中に入ったような気分。


見たことのないものが、俺の好奇心をくすぐる。


「これが異世界……、凄い、凄い、凄い!」


俺は興奮して、声を上げてその場で思わず大きく飛び上がった。


ガサッ


っとその時、ポケットに不思議な違和感をおぼえた。


(ん、なんだ?)


ガサッゴソッガサッゴソッ


ポケットに手を差し入れると、そこには3枚の紙が入っていた。


取り出して見てみると、それぞれの紙の大きさは1辺約10cm程度の小さなものであった。


(これは、一体……)


スッーンと鼻息を立て、それらを汚い土が被った道の上に置いて腕を組み考える。


3枚の紙にはそれぞれ【創造力】【攻撃力】【守護力】という文字が書かれていて、その下にはそれぞれの説明が書かれていた。


目を細めながら、説明文を読んでいく。


【創造力】

これは夢幻世界むげんせかいでありとあらゆる物を生み出す事ができる能力。

LvMAX状態・・・これ以上強化はできません。

★飲み込むと効力を発揮します。


【攻撃力】

これは夢幻世界でありとあらゆる攻撃術を使う事ができる能力。

LvMAX状態・・・これ以上強化はできません。

★飲み込むと効力を発揮します。


【防御力】

これは夢幻世界でありとあらゆる防御術を使う事が出来る能力。

LvMAX状態・・・これ以上強化はできません。

★飲み込むと効力を発揮します。


????????


俺の頭から、ハテナマークが飛び溢れた。


これらの力は、まるでゲームやラノベの登場人物が持つ能力みたいだ。


でも、幾つか気になる箇所がある。


まず、LvMAX状態ってどういう事だ?


普通、こういう能力は徐々にLvを上げるもの。いきなりLvMAX状態なんて、何にも面白くない。ただのチートだ。


あと、【攻撃力】と【守護力】は分かるが、【創造力】って何だよ。


ありとあらゆる物を生み出すって、まるで神様じゃないか。こんな落ちこぼれの俺が、神の力を使用するなんて、おこがましいにも程がある。


最後に、もう1箇所気になる所がある。


「★飲み込むと効力を発揮します」って何だよ。


俺はヤギじゃないんだぞ。俺は一応、人間だ。


それに、飲み込むって何を飲めばいいんだ?


あの血のような水か?


ふざけるな、あんな気持ちの悪い水なんて飲めるわけないだろう。


「フゥーーー」


熱い心の中の独り言が幕を閉じ、心を落ち着かせるためにそーっと息を吐く。


あぁ、前世の時と同じだな。


記憶が曖昧でハッキリとは覚えていないが、確か俺は前世でも独りぼっちだったような気がする。


せっかく煉獄の審判者が来世を与えてくれたのに、またこれかよ。


俺だって、別にひとりが好きなわけじゃな……


「貴方、そこで何してるの?」


寂寂たる中、突然後ろから、人間の声が聞こえた。


振り返ると、そこには青色の髪をした少女が立っていた。少しボロい茶色の服を着ていて、足元を見てみると靴を履いてない。


見た目から判断するに、俺と同い年くらいに見える。身長は、俺より少し低い164cmくらいだ。


って、いかんいかん。


また独り言が始まってしまった。俺の悪い癖だ。


「俺は赤谷結斗。えっーと、何でここに居るかは俺も分からないんだ」


「えっと、どういう事?」


「多分、信じてくれないかもしれないと思うけど、俺は煉獄の審判者にここへ転生させられたんだ」


「転生?でも、貴方何歳?」


「18歳」


「だよね。転生したのなら、貴方は0歳からこの世界にいるはずなんじゃない?」


「それが、前世の時の体を引き継いで転生したみたいなんだ」


「そうなんだ」


少女は腕を組み、頭を傾げた。おそらく、俺が嘘をついているのか伺っている。


少し黙り込んだ後、彼女は再び口を開けた。


「ちなみに、貴方の出身地は何処?」


「東京都」


「聞いた事ない地名だわ。じゃあ、やっぱり貴方は本当に違う世界から来た人、つまり異世界人?」


「まぁ、そういう事になるな」


「本当にこういう事ってあるのね。うーん、じゃあ貴方、今日は私の家に泊まりなさい」


「えっ、いいのか?」


「えぇ、勿論。私が思うに貴方は嘘をついてなさそうだし。それに、もうすぐしたら夜になって、この辺りはスリープスモッグに覆われてしまう。もし、この前外にいたら危険よ」


「スリープスモッグ?」


「この世界は、夜になるとスリープスモッグっていうガスが世界を覆うの。スリープスモッグを浴びてしまうと、その日の記憶が全て消えてしまう。とても恐ろしいガスなの」


「そんな恐ろしいガスが!?

いやー、君と会えて良かったよ。もし、このままこの場で一夜を過ごしていたら、俺の記憶は永遠に消えてたかもしれない」


「本当に危ないところだったわ。じゃあ、行きましょう。もうすぐ、夜が来る」


真っ黒な月が空に上がってきた頃、俺はこの少女の後をついて行った。


明かりという明かりが一切無いため、目の前はほぼ真っ暗だ。


グヮアーーーーーーー


突如、甲高い鳴き声が耳に入り、鼓膜を細かく振動させた。


「わっ、な、何だ!?」


「オオカラスの鳴き声よ。夜が近づくと、私たちに鳴き声を通して教えてくれるの」


「そ、そうなんだ」


この少女、怖くないのか!?


こんな真っ暗で静かな道を、怖がることも無いで歩き続けるなんて、俺には無理だ。


昔行ったお化け屋敷とは、まるで比べ物にならない。それくらい、怖い。


「少し走るわよ。このままだと少し危険」


暗闇の中、いきなり少女は走り始めた。


「えっ、ちょっと、待ってーー」


俺はビクビクしながら、少女の後を必死に追いかけて行った。





「さぁ、着いたわよ」


「あー、疲れた。お邪魔します」


木造の家の中には、彼女以外の人が見当たらない。でも、一人暮らしにしてはあまりにも広すぎる。


「あれ、ここは君以外の人は住んでいないの?」


「以前は住んでいたわ。でも、みんな死んじゃったから。お父さん、お母さん、お兄さん、全員……」


「ごめん、悪い事を聞いてしまった」


「いいのよ。誰だって疑問に思うわよね。こんな広い家に私以外の人が居ないなんて」


彼女はそう言うと、階段を上り始めた。


「あの、俺はどこに泊まれば?」


「私と同じ部屋に泊まりなさい。ベッドは私の部屋以外に置いていないから」


「あぁ、そうか」


タン、タン、タン、タン


ゆっくりと重い足を持ち上げていく。まだ、ズボンには赤い水が少し染みている。





「ここが君の部屋か。とても綺麗だな。なんというか、清潔感が凄いね」


「有難う。さぁ、寝るわよ」


「えっ、もう寝るの?」


「当たり前じゃない。この世界は、夢の中でも生活をするのよ」


「夢の中で生活?」


「そう。その世界の名前は夢幻世界むげんせかいといって、今いる世界とは全く異なる世界よ」


(夢幻世界、どこかで聞いたような……)


(あ、そうだ。あの3枚の紙だ)


「ねぇ、水ってある?」


「あるけど、何に使うの?」


「ちょっと、喉が乾いちゃって」


「分かったわ。この部屋を出て、廊下を渡り、奥に洗面所があるわ」


「有難う」


俺はドアを開けて、暗い廊下を渡り、洗面所へと移動した。


(よし、一応試してみるか)


ポケットから3枚の紙を取り出して、水につけて、ふにゃふにゃにした。


そして、勢いよく飲み込んだ!


「ウォエーーー」


喉に紙が引っ付く。


何度も何度もコップに水を入れ、喉に流し込む。胃が水で満たされていく。


そして、遂に俺は紙を飲み込むことに成功した。


「フーっ、飲み込めた」


その後、俺は腕で口をサッと拭き、部屋へ戻り、ベッドの中へ入った。


「じゃあ、電気消すね」


カチッ


部屋が暗黒と化した。当然、外の世界も真っ暗なので、何も見えない。


「そう言えば、君の名前聞いてなかったよな。名前は何だ?」


「私はデメテル。貴方は確か、ユイトだよね?」


「あぁ、そうだ」


「じゃあ、ユイト。夢幻世界でまた会いましょう」

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